通信ネットワークの到達距離の拡大に最適な光増幅器

ジョン・ザイスカインド、アテュール・スリヴァスタバ

波長分割多重光通信アーキテクチャの到達距離は、CバンドとLバンドのエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)、ハイブリッドラマン/EDFAシステム、新しい利得媒質材料および半導体光増幅器を使用して拡大を続けている。

過去15年間、光増幅器は高密度波長分割多重(DWDM)にもとづく光ファイバ通信ネットワークを可能にし、一般家庭から企業までの帯域幅ニーズを満足する重要な役割を果たしてきた。また、通信システムの到達距離の拡大と再構成可能光アド/ドロップ多重装置(ROADM)による波長ルーティングネットワーキングの両方を可能にしてきた。
 ネットワークの継続的な費用低減と機能増強の必要性は、光増幅器の設計に進歩をもたらした。現在、2 つの大きな動向がメトロおよび長距離光ネットワークの発展を牽引している。第1の動向はシステム容量を到達距離の減少なしに拡大し、装置とファイバの費用を低減する。第2 の動向はROADMによる光ネットワーキングを使用し、装置の利用率を高めて、激しく変化し急速に増大するトラフィック需要への対応を可能にする。

働き者のEDFA

1990 年代のエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)の導入が、光増幅器/ DWDMの技術革新を引き起こした。この増幅器を用いることでシステム容量は2桁も増加し、同時に、システム到達距離の拡大と高価な光‐電気‐光再生器の必要数の低減が可能になった。
 EDFA はエルビウムドープコアの単一モードファイバを使用する。このファイバは適切なポンプ光(一般に980nm、場合によっては1480nmの半導体レーザ)を使用して、C バンド(約1528〜1565nm )の波長の光信号を増幅する。EDFAは適度のポンプパワー、高い出力パワー(一般に23dBm だが、ポンプパワーを高くすれば、より高い出力パワーも得られる)、量子限界に近い雑音性能、偏光無依存性、遅い利得動特性(DWDM チャネル間の利得仲介クロストークなしの深い飽和の動作を可能にする)などの利点が得られる。
 DWDMシステムに使用される標準のEDFAは、利得平坦化フィルタ、内部可変光減衰機(VOA)および自動利得制御を内蔵する多段アーキテクチャからなり、Cバンドの全域にわたる平坦利得スペクトルを広い利得範囲で得ることができる。さらに、分散補償モジュールを中段に配置する設計は、雑音への影響を最小に抑えながら、関連する損失を補償できる。
 現在の1.2W が得られるデュアルチップ980nm半導体レーザポンプなどの高パワーポンプは、先端アーキテクチャDWDM増幅器を設計するための重要な手段になっている。システム到達距離の減少のない容量増加を支援するために、装置メーカーは40Gbit/s と100Gbit/s のチャネル速度でのコヒーレント検出による偏光多重化直交位相シフトキーイング(PM − QPSK )伝送などの新しい変調フォーマットを活用して、大容量チャネルを実用化している。
 符号速度が向上し、多値変調方式がさらに複雑になると、雑音の要件はより厳しくなる。さらに、これらの新しい変調方式に使用するコヒーレント受信機は光学非線形性の許容範囲が直接検出よりも狭くなり、受信機の光学雑音対雑音比(SNR)低下の原因となる信号パワーの低減が必要になる。その結果、システムの到達距離を維持し、付加的な光‐電気‐光再生器の付加コストを不要にするために、増幅器の雑音性能の改善が必要になる。

ハイブリッドラマン/EDFAシステム

希土類ドープファイバ増幅とは異なる分布型ラマン増幅は、どのようなファイバでもポンピングによって可能であり、ファイバ材料に固有の光学フォノンを利用して誘起され、雑音性能が顕著に改善される。分布型ラマン増幅には2つの重要な利点がある。第1に、分布型増幅は伝送用ファイバをポンピングすることで誘起され、その雑音性能は離散型EDFAに比べると5dBの改善になる。第2に、EDFAのような原子イオンの電子遷移ではないため、ポンプ波長を適切に選択すると、平坦で広帯域の利得スペクトルが得られ、スペクトル操作も可能になる。
 ラマン利得(dB の対数尺度で測定する)は使用するポンプパワーにほぼ比例する。実用的な利得の生成に必要なポンプパワーはかなり高く、分散シフトのないファイバのC バンドの全域でかなり平坦な約10dBの利得を得るには、少なくとも2 つのポンプ波長から合計約500mW のポンプパワーが必要になる。今日の高性能ラマン増幅器は波長の異なる4つのポンプモジュールを使用して、広帯域で平坦な利得スペクトルを生成する。残念なことに、高いポンプパワーの供給コストは、ラマン増幅を商用通信ネットワークに採用するときの障害であった。
 ラマン利得は偏光依存性が高いため、ポンプの偏光解消手段を内蔵したポンピング方式が必要になる。初期のラマンポンプの場合、このことは2 つのポンプ半導体レーザのポンプ波長を偏光多重化することで実現されたが、現在はポンプ光の偏光解消が広く採用され、例えば、リオ偏光解消器が使われている(1)。ラマン増幅は優れた雑音性能を確保できるが、得られる利得と信号出力パワーには制約がある。したがって、後方ポンプ分布型ラマン前置増幅器および利得と高出力パワーを付与するブースタEDFAからなるハイブリッド配置が広く採用されている(図1)。
 高いポンプパワーは敷設されたファイバ内部に励振されるため、ラマン増幅は人体へのアイセーフ限界以上の露光を防止する安全対策が必要になる。また、ラマン増幅器の性能は増幅ファイバの特性の影響を受ける。例えば、チャネル監視装置や新しいファイバ診断装置を用いる監視制御方式は、安全対策と性能最適化の2つの用途を見出すと考えられる。

図1

図1 ハイブリッドラマン/EDFAシステムは、組み合わせた高パワー14xxラマンポンプ半導体レーザ光がファイバに励振され、伝送信号とは反対方向に伝搬する。分布型ラマン前置増幅は雑音が低く、EDFAは高い利得と高い出力信号パワーが得られる。4ポンプ波長ラマンポンプ、可変光減衰器をもつ二段EDFA および二段間の利得平坦化フィルタを組み合わせて広い利得範囲の平坦化利得スペクトルを確保する。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/02/201202_0042pa.pdf