新技術は光データストレージ容量の密度を上げ続けることができるのか?

ゲイル・オバートン

光データストレージの容量は、ブルーレイの容量を超えて増大しており、ホログラフィック、近接場光、さらにはHAMR(heat [laser]-assisted magnetic recording)までもが、実現に向けて現実味を帯びつつある。しかし、いずれの次世代製品も、実用化するには技術やコスト上の問題を解決する必要がある。

ペンウェル社( PennWell)傘下の米ストラテジーズ・アンリミテッド社(Strategies Unlimited)の予測によると、約76 億ドル規模とされる2012年のレーザ市場のうち、市場全体の10%
以上に相当する7億8500万ドル近くが、光データストレージレーザの売上高であるという(1)。しかし全般的には、光データストレージ市場におけるレーザダイオードの売上高(販売先は主に日
本企業)は、2012 年以降減少し続けると予測されている。部品価格の低下、市場の成熟、消費者や企業が光学系以外のフラッシュドライブや「クラウド」データストレージを選択し始めていることがその理由である。2011年以降、780nmのCD(compact disc)と650nm のDVD(digital video disc)の各レーザダイオードの売上高が減少の一途をたどる見込みである一方で、405nm のブルーレイディスク( BD )レーザダイオードの売上高は、堅調なペースで増加し続けると予測されている。
 光データストレージレーザの売上高は2015 年まで減少し続けると予測されているにもかかわらず、ホログラフィックデータストレージ、3次元光ストレージ、HAMR クラウドといった新しい技術によって、同市場の展望は大きく覆される可能性がある。光メモリや光データストレージの容量は、多様なフォトニクス/光工学による記録手段の採用によって、1平方インチあたり1テラビットを超えるレベルにまで増大している。このようなバルク型光学素子とレーザを用いたハイブリッド型の手法や、ナノリソグラフィに基づくパターンドメディアなど、近接場光や超解像技術を用いた手法が今後、光データストレージネットワークにおいて広く採用されるであろうことは間違いない。しかし、これらの次世代プラットフォームのいずれかを実用化するには、技術やコスト上の問題を解決する必要がある。

ますます増大するストレージ容量

光データストレージの容量は、波長(と記録フィーチャサイズ)の減少に伴って急激に増加している。CDには約700Mバイト、DVDには5Gバイト近くのデータを記録することができる。業界団体ブルーレイディスクアソシエーション(Blu-ray Disc As so ciation、www.bluraydisc.com)によると、単層のBDの記録容量が25Gバイトであるのに対し、2層のBD(ディスクの片面に2つの光層)は50G バイトを記録可能であるという。また、複数のメーカーによって現在、3 層と4 層のBDXL 技術が提供されており、それぞれ100Gバイトと128Gバイトのストレージ容量をサポートする。
 では、光ディスクによる保存可能期間はどの程度だろうか? この期間については幅が非常に広く、CDで約5〜10年(表面に傷がつかない場合)、BD では最大50 年間と、パナソニックの50Gバイトブルーレイディスクである「LongLife Dual Layer」の製品仕様には記されている(2)。
 ディスクベースの光ストレージはすべて、同じ技術的原理に基づいている。レーザダイオードが、回転ディスクの1つまたは複数のポリマー層(通常はポリカーボネート)にピット(へこみ)を
(中心から外側に向けて)作成し、それがレーザによって1または0として読み出され、バイナリデータコードとして解釈され、音声/映像としてディスクプレーヤーへと送信される。ブルーレイプレーヤーは通常、CD やDVD プレーヤーとの下位互換性がある。この下位互換性の実現には、例えば、ソニーのスタックダイ、5ピン、3波レーザダイオード技術である「SLD6562TL」などが使用される(図1)(3)。
 光データストレージの専門家で、米ジ・アドベント・グループ社(The ADVENT Group)のプレジデント兼マネジメントプリンシパルを務めるリチャード・G・ゼック氏(Richard G.Zech)は、2012 年1 月に米ネバダ州ラスベガスで開催されたIEEE ICCEカンファンレスでの自身の講演において、ブルーレイとその各種派生製品が将来の光ストレージの主流になると予測した(4)。ホログラフィック手法や3次元手法は、短期的には実用化にこぎつくことはまずないと同氏は述べた。残念なことにゼック氏は、ブルーレイでさえデータストレージ容量の理論的な限界に達してしまっていると指摘している。波長405nm、一般的な開口数0.85(従来型の対物レンズを使用した場合)であることから、ピットの垂直方向の間隔(トラックピッチと呼ばれる)は320nm 程度となり、単層ストレージ容量は1 平方インチあたり25 または18.1Gバイトが限界となる。
 しかし近い将来、近接場光や複数層記録方式など、ブルーレイのプラットフォームとその120mmのディスクを使用したストレージ容量を拡大するための手段がいくつか登場するとゼック氏は予測している。またその先には、(技術が成熟して価格が低下すれば)紫外線(UV)やさらにはX線ディスクが登場する可能性もある。ナノレーザや開口部が非常に小さいレーザと、ナノフォトニクスの進歩によって実現されるパターンドメディア、プラズモニクス、さらには、遠紫外線およびX線のスポット生成を実現する光子ふるいによって、これらの技術が実現される。

図1

図1 ブルーレイ光データストレージシステムは通常、CD やDVD システムとの下位互換性を有する。つまり、このソニー製スタックダイ構造の走査型電子顕微鏡(SEM)写真が示すように、405nm の青色レーザだけでなく、780nm(CD)と650nm(DVD)のレーザにも対応する。複数の波長は、ダイ表面の写真に示された位置から放射される。(提供:ヨール・デベロップメント社〔Yole Developpement〕とシステム・プラス・コンサルティング社〔System Plus Consulting〕)

従来のブルーレイを超える容量

ブルーレイを超える光データストレージ容量を実現するための、最も手っ取り早く実現可能で、コスト効果の高い方法の1つは、同じ青色レーザを近接場構成で利用することである。つまり、ソリッドイマージョンレンズ(SIL:solid immersion lens)やエバネセント波といったフォトニクスの「仕組み」を利用して、従来の光学部品の回折の限界や固定のスポットサイズといった問題を解決する。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/12/201212_0040pa.pdf