フォトニクスベースツールの進歩によって拡大するゲノミクスの可能性

ジェフ・ヘクト

レーザ誘起蛍光はヒトゲノム解読において重要な役割を果たした。今や、さらに高度なフォトニックシステムがシーケンシングコストを削減し、ゲノム研究と合成生物学に新たな可能性を与えている。

ゲノミクス、すなわちゲノムの遺伝地図作成、解析、そして研究は、10年前のヒトゲノム解読の成功以来、幸運が続いている。急速な技術改良はシーケンシングコストを削減し、データ品質を高めた。米国の国立ヒトゲノム研究所は、1 人の完全なゲノム解読コストが2001年9月の9500万ドルから2011年10 月には7700 ドルまで削減されたと報告している。米国学術研究会議が8月に発表した「光学とフォトニクス:我が国の主要な技術」(「Harnessing Light 2.0」としても知られる)によれば、新しい世代の機器は数年後に1000ドルまでコストダウンされそうだ(1)。
 ゲノミクスへの多額の投資を支える駆動力はゲノムの理解が医療診断と治療法に革命をもたらすだろうという期待である。一方、ゲノム研究はすでに基礎科学において成功を収め、進化論的関係についての主要な疑問に答えを出し、現代ヨーロッパ人の遺伝子の数パーセントがネアンデルタール人由来であることを明らかにしている。
 フォトニクスはこの進歩を後押しした。1970年代のDNAシーケンシングは、DNAフラグメントを放射性リンで標識化し、それらをゲル電気泳動で分離する非常に遅いプロセスであり、1日に1000塩基対以下しか識別することができなかった。この速度で30億塩基対の全ヒトゲノムの配列を決定するとしたら約8000年もかかる。
 放射性標識を蛍光標識に置き換え、分離法を改良することで、1980年代にはその能力が10倍になった。さらなる前進が加わり、配列決定速度が1日に20〜30億塩基対に高められ、同時にコストが削減された。そして、遺伝物質を操作し、DNAの生のビルディングブロックから生きた生物の遺伝子、染色体、または遺伝子型全体を合成する新しいレーザ技術が登場した。

DNAシーケンシングの基本

DNA は互いに巻きついた2本のヌクレオチド鎖からなる二重螺旋である。これは、バックボーン鎖に結合し、もう1つのバックボーン鎖上の第2の塩基とも水素結合を形成する「塩基」配列として遺伝子をエンコードする。塩基アデニン(通常Aで表す)はチミン(T)に結合し、シトシン(C)はグアニン(G)に結合する。この選択的結合は2 本のDNA鎖を相補的にするので、1本の鎖
をデコードすれば第2の鎖の配列識別が可能になる。塩基配列は遺伝子をエンコードし、遺伝子は生物体内で生物学的機能を実行するが、既知の機能をもたない他のDNAストレッチも存在する。
 DNA シーケンシングは、どの塩基がその鎖に結合しているかを識別する方法を必要とする。初期には、放射性元素で塩基を標識化する方法で行われていたが、異なる波長の蛍光を発する色素で塩基を標識化するようになって、このプロセスは大幅に簡素化された。センサは、レーザまたは他の光源でDNAを照明して発生する色を記録することによって、そこに存在する塩基配列を読み出す。
 このプロセスの光学部分は比較的単純である。この研究の大部分はDNAを塩基毎に分析する化学的方法の開発に向けられている。一般に、まず染色体を2本の鎖に分離し、次に数百から数千の塩基を含むランダムな長さの断片に分割する。それから、これらのフラグメントを大きな容積内に並べ、コンピュータを使ってフラグメントが互いに縫い合わされるように重複DNA 配列を適合させ、遺伝子または染色体の全体を配列する。
 詳細は技術間で大きく異なるが、シーケンシング研究の良い例は、英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)のフレデリック・サンガー(Frederick Sanger)氏が1970 年代に開発したチェーン・ターミネーション法である。1本鎖DNA断片の多数の複製に対して、二重螺旋を生成するための相補的鎖組み立てに必要なA、C、G、およびT塩基を混合する。この混合物は改質によって特殊に変形された1 塩基を含み、それがさらに多くの塩基の付加を防止することによってその鎖を終端させ、識別用の標識を運ぶ。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/12/201212_0036pf.pdf