536nmで発振する緑色レーザダイオード

InGaN(窒化インジウムガリウム)レーザダイオードは新しい性能レベルに到達した。周波数を2倍にしたNd:YAGレーザ出力による532nm以上の緑色波長域において、連続波を発振できるようになった。これまで波長の最高記録を保持していたのは住友電気工業のダイオードで、527nmだった。今回、住友電工とソニーの先端マテリアル研究所のチームは、532nm 以上の波長で100mWを超える連続波を発振するダイオードを発表した。彼らは536.6nm(出力値は非公表)での連続波発振を確認している。
 研究者らによる今回の成果は、レーザディスプレイやプロジェクタの開発において画期的なものとなる可能性がある。周波数を2倍にしたネオジウムレーザが存在するが、それらは外部変調器を必要とする。緑色レーザダイオードは、特に携帯機器においてより魅力的な存在である。直接変調可能で、サイズが小さく、より効率が高いからだ。住友電工半導体技術研究所の高木慎平氏とそのチームによると、レーザプロジェクタの開発者らは、緑色で50mW、ウォールプラグ効率4.5%を求めているという(1)。
 また、ダイオードの発振波長が、今日市販されている緑色レーザダイオードの515〜520nmよりもむしろ、530〜535nmの範囲となることを望んでいる。ほとんどの応用分野では波長が10nm シフトすることにあまり意味はないが、レーザプロジェクタは例外である。人間の視覚において緑色光が重要であるためだ。
 その理由の1 つは、目の中の色を認識する錐体細胞の感度が緑色の555nmに対して最も高いことである。これは、地球の表面における太陽光スペクトルのピークと一致している。2つめは、色の認識が目の色受容体の相対的な感度に依存し、緑色の受容体と赤色の受容体はピークがそれぞれ540nmと570nmで近接していることである。この感度から、レーザプロジェクタに使用される緑色波長が、表示可能な色域(色範囲)を決定する特に重要な要素となる。国際照明委員会(CIE:International Commission on Illumination)のダイアグラム(図1)に示されているように、色域は波長が約523nmの場合に最大となるが、目はそれよりも長い波長に対して感度がより高いことから、ディスプレイに最適な波長は530〜535nmということになる。

図1

図1 CIE 色度グラフからは、3色レーザディスプレイによって生成される色範囲が最大になるのは緑色レーザが523nmで発振する場合だが、効率がより高いのは、目の感度が最も高い550nmで緑色レーザが発振する場合であることがわかる( Wikipedia のUser:PARに掲載された画像を改変)。

半極性面

520〜530nmの帯域を達成するには、約30%のインジウムを含む高品質のダイオードを形成することが課題であった。市販のInGaNレーザダイオードは、基板の六方晶系のc面で形成される。c面は極性が強く、電界によって電子と正孔が隔離される。そのため、インジウムをさらに追加しなくても発振波長は長くなるが、その代わりに再結合率と発振効率が低下してしまう。
 代替策の1つは、c面に直交する非極性のm面で成長させることだが、このダイオードの作製は困難であることが分かった。そこで住友電工や、米コーニング社(Corning)、ソラー社(Soraa)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校などの開発者らは、妥協策を採用した。c面と水晶軸の両方と45°の角度をなす半極性面上でダイオードを成長させたのである。この場合、成長はより容易で効率も高いが、より多くのインジウムが必要となる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/12/201210-11_0012wn01.pdf