最新の基盤技術からコンパクトなIR、THz光源

井上 憲人

スコットランドの光源メーカー、Mスクエアレーザー社は、斬新なマウンティング技術InvarianT と、エレクトロニクスデザイン技術をベースにして、コンパクトでメンテナンスフリーの光源を相次いで市場投入している。

すべての光源に共通する特徴

Mスクエアレーザー社(Mスクエア)が最近発表した光源に共通する特徴を最初に見ておこう。3つ上げるとすれば、コンパクト、メンテナンスフリー、ハンズフリーとなる。これらの特徴は、中赤外波長可変光源Firefly-IR、ナノ秒パルス波長可変THz光源Firefly-THz、ウルトラファーストTi:S 光源Sprite-tに共通している。もちろん、3年前に製品化されたCW単一周波数波長可変Ti:S光源SolsTiSも同じ特徴を備えている。どの程度コンパクトであるかをこれらの光源の中から代表として、Firefly-THzを取り上げると、励起レーザ内蔵で540×140×90mmだと言う。テラヘルツ(THz)光源として使われることが多いフェムト秒レーザと比較すると、MスクエアのFirefly-THzのコンパクトサイズが容易に理解できる。量子カスケードレーザ(QCL)は、Firefly-THzよりも一段とコンパクトではあるが、チューニングレンジやピークパワー、使いやすさの点ではFirefly-THzに太刀打ちできない。
 Firefly-THzだけでなく、Firefly-IR、Sprite-t光源すべてが共通してコンパクトであり、しかもメンテナンスフリーであるという特徴はどこから来るのか。
 9月に横浜で開催されたInterOpto2012に来日したMスクエア、マーケティング・ダイレクターのデービッド・アームストロング氏は、これらの光源のベースになる要素技術を3つ挙げている。

独自のマウンティング技術

Mスクエアの光源をコンパクトにし、メンテナンスフリーにする重要技術、同社独自のマウンティング技術はInvarianTと言う(図1)。
 「ミラーのアライメントにInvarianTと呼ぶ技術を用いている。工場で、溶けたソルダーの中でミラーをマウントし調整して固めると、ミラーの安定性は極めて高くなる。この後、ユーザーが自ら再調整する必要はない。また、この技術のために材料を慎重に選んでおり、歪も熱膨張も少ない材料を選択している」(アームストロング氏)。
 この技術は、現在特許申請中であり、詳細は公開されていない。
 これに対して、従来技術では、ボールとスプリングを用いているため、時間とともにバネ定数が変化し、歪が生じ、ユーザーが自分でアライメントをやり直すことが必要になると言う。

図1

図1 InvarianT と従来のBall+Spring の違い。従来技術は、ユーザーが一定期間で再調整する必要がある。バネ定数の経年変化、温度の影響を受けやすいためにドリフトが生ずる。オプティクスに対する圧力のかけ方に起因する歪が生ずる。こうしたことからメンテナンスが必要。一方、InvarianT 技術を使ってマウンティングすると、工場で設定した後の再設定、メンテナンスは不要となる。設計、材料の選択により温度の影響も小さく、ドリフトフリーとなっている。

エレクトロニクス技術

Mスクエアの光源を使いやすくしているのは、エレクトロニクス設計のノウハウを熟知したデザインチームによって実現された最新の制御システムである、というのがアームストロング氏の説明。同氏によると、通信市場をターゲットとする大手測定器メーカー出身の技術者もチームの一員となっており、ハイエンドHi-Fi システム設計の経験者も含まれている。競合の光源メーカーは、旧来のアナログデザインにとどまっているところも少なくないが、Mスクエアのデザインチームはデジタル技術を採用し、小型でコンパクトなコントローラを開発している。デジタル技術を使うとは、デジタル信号処理をしてローノイズのコントローラを実現することまでも含んでおり、これは製品化されている同社の各種ICEBLOC製品に反映されている。ICEとは、Instrument Control by Ethernet:Ethernetによる機器制御を意味する。
 これらのICE-BLOC製品はEthernetベースの制御システムであり、これによりMスクエアのエンジニアと顧客はリモートサイトからレーザドライバの電流制御、温度コントロール、アクチュエータのコントロールなどの操作することができる。また、このICE-BLOCコンセプトは、世界のどこにいても光源のモニタリング、診断が可能であることも示唆している。ユーザーが所有するMスクエア製品がネットワークに接続されていれば、スコットランドのMスクエア本社のエンジニアが問題の発生した光源を診断することもできる(図2)。ICE-BLOCは、あらゆるものがネットワークに接続される時代に相応しい制御システムの設計になっていると言える。

図2

図2 Firefly レーザの制御画面。波長、温度などの設定を行う。光源がネットワークに接続されていれば、世界中どこからでも制御、モニタリング、診断が可能。

大学との密接な関係

スコットランドには、オプティカル研究ラボが多くあり、アームストロング氏によるとレーザ研究支援も歴史的に手厚い。15世紀に設立された大学もいくつかあり、Mスクエアのレーザキャビティ設計は、これらの大学のうちのセントアンドリュース大学の研究チームのアイデアをベースにしている。
 「大学で開発されたイントラキャビティOPO技術ノウハウのライセンスを受け、製品化した」というのがアームストロング氏の説明。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/12/201210-11_0032feature03.pdf