青色へと向かうTi:サファイアポンピング

クリストファー・ウッド、スターリング・バッカス、ジェフ・スクワイア、チャールズ・ダーフィー

直接レーザダイオードポンピングがカーレンズモード同期Ti:サファイアレーザに使えるようになった現在、ポンプサブシステムのコストが1/10に削減され、新世代のTi:サファイアレーザへの道も開かれた。

最近、パルスレーザ用の新しい利得材料、特にファイバベース材料が注目を集めている。これらの新しい固体レーザの最も重要な利点の1 つは、レーザダイオードによる直接ポンピングが可能なことであり、それがシステムレベルの大幅な簡素化とコスト削減および信頼性向上へとつながる。
 間違いなく最も重要かつ幅広く利用されているレーザ結晶の1つ、チタンドープサファイア(Ti:サファイア)はその道をたどらなかった。Ti:サファイアの場合は、500nmのピーク吸収近くの波長の光を放射する十分に強力なレーザダイオードがなかったため、他の多くの固体レーザ開発と同様のレーザダイオードポンピングの流れに倣うことができなかった。
 しかし最近になって、このいちじるしく目立つ例外は、米カプテイン・マーナン研究所(Kapteyn-Murnane Laboratories:KMLabs)とコロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)の研究チームによる直接ダイオードポンプTi:サファイア超高速発振器の最初のデモンストレーションをきっかけに例外ではなくなった(図1)(1)。ポンプレーザはTi:サファイアの歴史において重要な役割を果たしてきた。そして再びその態勢が整った。Ti:サファイアの場合、532nm の固体レーザの代わりに青色レーザダイオードで直接ポンピングすると、ポンプレーザ関連のコストが約1/10に削減される。

図1

図1 ブルースターカットTi:サファイア結晶は青色ポンプダイオードからの厳密な焦点を示している。(資料提供KMLabs)

関連市場

Ti:サファイアをレーザ結晶として有利にしている強力な組み合わせ要素が存在する。それらは、スーパー研磨と高いレーザ損傷閾値を可能にする超高硬度、高出力動作に有利な高い熱伝導率、コーティングを助け、しかも環境に耐性をもつ表面化学、ブロードな広く分離した吸収と発光バンドなどである(図2)。
 しかし、Ti:サファイアが他のほとんどすべてのレーザ結晶と区別される特徴は発光帯域幅にある。この非常に大きい帯域幅(約650〜950nm)は連続波(CW)実装に対して優れたチューナビリティを提供するが、さらに重要なことは、それが世界最高性能のフェムト秒発振器と増幅器を可能にしたことであり、それがTi:サファイアが強力な超高速レーザの市場を支配している主な理由でもある。
 Ti:サファイアが寄与する超高速レーザ市場には、波長とパルス幅を適切に調整できる各種の多光子顕微鏡やイメージング技術の開拓などがある。事実上、世界中のすべてのテラワットとペタワット実験は、高次高調波発生を経由するコヒーレントな極端紫外線(EUV)やX線源といった比較的新しい分野と同様に、Ti:サファイアに頼っている。
 超高速分光法と光コヒーレンストモグラフィー(OCT)の科学と産業の市場は、約20 年間、サブ100fsパルスを容易に生成する能力に満足してきた。研究、計測学、化学センシングなどに向けたキャリアエンベロープ位相安定化による1オクターブ光周波数コムの出現は、様々な方法でTi:サファイアから恩恵を受けている。
 超短パルスから得られるピーク出力は波長変換をさらに容易にし、光パラメトリック発振器(OPO)や増幅器(OPA)などのデバイスはUVから中赤外(MWIR)をカバーする超短パルスを提供する。Ti:サファイアに適した応用は、超高速自由電子レーザのシーディング、他のパルスレーザシステムでは困難なことが判明している材料(ダイヤモンド、炭化物、窒化物、硬質合金など)の高速マイクロマシニングなど、次々に出現している。
 Ti:サファイアのそのような利点と多数の市場にもかかわらず、直接ダイオードポンピングが現在まで実証されなかったことは注目に値する。最初のTi:サファイアのデモンストレーションの直後に、研究チームは、このレーザが当時、多量の超高速研究に使用されていた色素レーザの理想的な代替になると認識した(2)。色素レーザの代表的なポンプはアルゴンイオンレーザ( 515と488nm線)であり、そのことはTi:サファイアでも継続された。したがって、Ti:サファイアのための高価なポンプレーザの先例は極めて早期に設定された。
 最初の周波数2倍化固体レーザ(532nm)が開発された時、それらは基本的にアルゴンイオンレーザを置換した。しかし、より新しく、より小型な2倍化バナジン酸塩レーザ、2倍化ファイバレーザ、または2 倍化された光ポンピング半導体レーザによってさえ、そのコスト構造は偏り、ポンプが依然としてシステムコストの30%から50%を占めた。

図2

図2 Ti:サファイア結晶(a)はブロードな広く分離した吸収と発光バンド(b)を持っている。(GTAT結晶系の画像提供:LLC、チャート提供:KMLabs )

直接ダイオードポンプ超高速発振器

直接ダイオードポンピングは、より低いコスト、より小さいサイズ、より低い消費電力、改善された効率、より高い信頼性などの多数の利点をもたらした。これらの利点を得た典型例は、Nd:YAG、Yb:YAG、ファイバベースシステム(主にNd、Yb、Er)などがある。その裏づけは年々増し、これらのレーザの直接ダイオードポンプバージョンはさまざまな産業と研究領域において主流になった。
 超高速レーザ(ここではパルス幅が100fs以下と定義)に関しては、直接ダイオードポンプ発振器の探索がCr:YAG、Crドープホルステライト(Cr:Mg2SiO4 )、Cr:LiCaF、Cr:LiSGaFなどの材料研究へとつながった(3)。好都合なことに、これらの材料は入手可能なレーザダイオードと同調する吸収バンドを持つが、いずれも幅広い適用を阻む基本的欠点ももっている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/12/201210-11_0024feature02.pdf