DARPAのフォトニクスプロジェクト─可能性の最先端
ハイリスク・ハイリターンの研究はDARPAプロジェクトの特権になっている。この研究事業局は地上からの打ち上げに十分な小型の高エネルギーレーザの構築、レーザビームの結合、実時間3Dホログラフィックディスプレイの創成などを含めて、広範囲のフォトニクスに挑戦している。
国防総省国防高等研究事業 局(DARPA)はレーザ研究を支援する最初の軍用事業局として、その基盤作りに参画してきた。DARPAの前身は、ソビエトがスプートニクを打ち上げた余波として1958年に設立された先端研究事務局で、将来性は有望だがDARPA以外の軍用研究機関にはあまりにもリスクの大きいプロジェクトを支援する役割を果たしてきた。DARPAがレーザを研究対象にする機会は、1959年の初めに訪れた。当時、今はなきTRG Inc.に在籍していたローレンス・ゴールドミュンツ氏(Lawrence Goldmuntz)とゴードン・グールド氏(Gordon Gould)が提案書を空軍科学研究局と陸軍通信隊に提出してすでに却下されていた。彼らは30万ドルを申請し、グールド氏の特許出願にもとづくレーザを構築しようとした。DARPAは特許のアイデアを非常に喜び、予算を99万9000ドルに引き上げた。
この資金はTRGがレーザ競争を勝ち抜くためには十分でなかったが、DARPAが優れたアイデアを取り上げることの証明になった。それからの50年以上にわたり、DARPAは最先端のレーザとフォトニクスの研究に対して投資を続けている。今やDARPAはフォトニックの最先端を研究する何十ものプロジェクトを進めている。本稿はレーザの3つのホットエリアになっているレーザ自体、レーザビームの結合と操作、実時間3Dホログラフィックイメージングの研究を紹介する。その他の数多くのレーザ、フォトニクスおよび光学プロジェクトはDARPAのウエブサイトに掲載されている(www.darpa.milを参照)。
レーザ
歴史的に見ると、DARPAのレーザプロジェクトは新しいレーザの探索から高エネルギーレーザ兵器用の試験まで広範囲に及んでいる。今日のポートフォリオに含まれていないアプローチは、1980年代に構築された5MW Alpha化学レーザを拡張して宇宙空間レーザ兵器としての可能性を試験するプロジェクトだが、現在の高エネルギー液体レーザ地域防衛システム(HELLADS)は当時のAlphaよりも実用可能性が高い。
HELLADSの目的は高エネルギーレーザの質量を 1桁下げて、150kWレーザを戦闘機に搭載することにある。これはロケット、大砲、臼砲および対空ミサイルによる数kmまでの攻撃を防衛できるパワーレベルになる。質量の目標値はkW出力当たり5kg以下に設定されている。DARPAは設計を公開していないが、他の文書によると、このレーザはダイオードポンプ固体スラブレーザから構成され、屈折率整合用の流動冷却液が使われる。このプログラムには米ジェネラルアトミクス社(General Atomics)の航空システム事業部と米テキストロンディフェンスシステズ社(Text ron Defense Systems)の両者が参画している。
2011年2月、DARPAはパワーシステムと熱管理システムを組み合わせた基本部品 2種類の設計が34kWを超えたと報告した。6月末になると、小型で軽量のレーザモジュールによる研究所の試験から、高いビームパワーと品質が得られたと報告した。DARPAのHRLLADSプログラムのマネージャを務めるリチャード・バグネル氏(Richard Bagnell)は、「単一レーザモジュール試験の成功は大きな成果になる。ダイオード、冷却、軽量エレクトロニクス、ポンプ、光学系および金属構造の進歩がレーザの有効性を損なうことなく小型化と軽量化を可能にした」と語っている。
本年6月、ジェネラルアトミクス社はHELLADS開発を継続するための4000万ドルを受領した。基本部品は複製され、研究所の全出力150kWのレーザに組み込まれる。このレーザは来年完成し、ビーム制御、電源、熱管理などの部品および指令制御サブシステムとの統合が行われる。2013年の初めになると、このシステムはホワイトサンズミサイル射場に移され、ロケット、臼砲および対空ミサイルに対する地上試験が行われる。
DARPAは電気的に励起する化学酸素ヨウ素レーザ(COIL)の拡張の可能性も調査し、150kWクラスレーザへの賭けのリスクを回避している。酸素ヨウ素レーザは高出力を確保できるが、前線の指揮官は運搬上の問題を引き起こすかもしれない特殊な化学燃料ではなく、電気的に装備された戦場用のレーザを必要としている。マイクロ波放電を動力として使用する放電励起COIL(DECOIL)プログラムの開発者は、まず100Wでの10%ウォールプラグ効率への到達を目指し、次に、技術を拡張して、1kWの出力の実証を少なくとも10%のウォールプラグ効率で試みる。その後は150kWへの拡張の段階になる。
DARPAは兵器以外のレーザも研究している。潜水艦レーザ通信用の青色レーザ(The Blue Laser for Sub marineLaser Communication)プログラムは、455nm固体レーザとセシウム原子フィルタを使用して、衛星と潜水艦との高速双方向通信の可能性の実証を目指している。衛星‐潜水艦リンク用の青色レーザの開発が試行されたのは何十年も前のことだが、その時のレーザはあまりにも大きく採用には至らなかった。新しい青色固体レーザはサイズの問題が解決され、日中でも使用できる水中透過ライダに応用されるかもしれない。それ以外にもいくつかのプロジェクトが公表されている。ウルトラビーム(Ultrabeam)は実験室レベルの装置によるガンマ線レーザの実証を目指している。昨年、DARPAは30アト秒パルスの4.5キロ電子ボルト光子を10mJのエネルギーで放射する研究室レベルのX線レーザを報告した。次の段階は、技術をさらに増強したX線レーザを使用し、大きい原子数の固体によるコヒーレントガンマ線増幅を実証して、3D分子イメージングや新しいデブリフリーリソグラフィへの応用可能性を明らかにする。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/11/1111frontier.pdf