Ⅲ族・窒化物系の光エミッタの鍵となる格子定数

エリアス・トウ、タルン・K・シャーマ

半導体UVのレーザとLEDの開発は進展しているが、それらの外部量子効率は依然として低い。その潜在的可能性を引き出す解決策の 1つは化学組成を操作して整合を実現する応用指向の窒化物基板の利用になるだろう。

UV放射の利点を生かす努力はIII族‐窒化物材料合成法の急速な進歩が基盤であった。ワイドギャップ半導体の窒化物材料は、電磁スペクトルがUV領域の発光素子の製造に利用できる。これらの材料は同じスペクトル領域の光検出にも使用できる。努力の大部分は二種類のUV光エミッタ、つまりレーザとLEDの製作に向けられてきた。これらの光エミッタの最も重要で興味深い
応用には、表面と器具の消毒と殺菌、水の消毒と汚染除去、産業用のUV硬化処理、光線療法,医療診断などが含まれる。
 III族‐窒化物合金の半導体系列のなかで、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)合金は、UV‐A(400~320nm)からUV‐B(320~280nm)を経てUV‐C(280~200nm)までのUVスペクトルに広がるエミッタの設計と製作に広く使用できる。文献に報告された素子のほとんどはサファイア基板上の成長が採用されている。そこでは一般に、活性領域の成長に先行して、サファイア基板上にAlNバッファ層が蒸着され、それに続くAlGaN層と基板を仲介するバッファ層になる。次に、シリコンドープAlyGa1yNクラッド層が蒸着され、その上部にはAlxGa1xN/AlyGa1yN(y<x ≧0.6)多重量子井戸からなる活性層が蒸着される。最後にp型AlyGa1yNからなる上端クラッド層が成長する。上側電極層の成長の前に、一般には二つの方法のいずれかを使用して、活
る。第一の方法は高アルミナ濃度のAlzGa1zN量子障壁(z≧0.9)を組み込む。この障壁には高濃度ドープp型GaN電極層が続く。第二の方法の電子遮断法は単一量子障壁の代わりに多重量子障壁構造を使用する。後者の場合はAlxGa1xN/AlzGa1z構造のいくつかの周期を使用すると、動作特性がわずかに改善されると報告されている(1)。

EQE増強の障害

UV光源の開発はいくつかの進歩を遂げたが、窒化物エミッタの極端に低い外部量子効率(EQE)が主要な障害として残っている。つまり、発光波長が深UVに近づくと、発光効率が顕著に低下する(2)。LEDのEQEは内部量子効率、キャリア注入効率および光抽出効率の積として定義される。内部効率はエピタキシャル層の結晶品質との関係があり、性能は欠陥や転位が少ないほど向上する。
 素子構造がサファイア基板上に成長すると、格子不整合から誘起される欠陥と転位(1010cm-2に達する場合もある)は望ましい104cm-2ないしはそれ以下のレベルには減少しない。その他の二つの問題もキャリア注入に影響を及ぼし、高濃度ドープp型AlGaNクラッド層と障壁層の実現を困難にする。
また、重要となるヘテロ接合界面におけるバンド構造の不連続性の大きさも減少する。さらに、UV光は p側電極において吸収される。
 格子不整合誘起による欠陥と転位を最小にするために、最近ではバルクAlN材料が提案され、UV光エミッタの基板として使用された(3)。このAlN基板は基板とそれに続くAlGaNとの格子不整合と熱不整合が減少する。バルクAlNを基板として使用するときの転位を減らすには、最上部に成長するAlGaN層を十分薄くしなければならない。この層のAl濃度が高いと、構造は間違いなく擬似形態になる(つまり、基板の結晶構造が維持される)。これは素子設計において許容できないほどである可能性がある。この方法にもとづくUV LED特性の改善が報告されたが、深UV LED(発光波長<350nm)のEQEは低いレベル(<2%)しか得られていない。

残留歪み

われわれは最近の文献のなかで、高効率UVエミッタの製作を妨げる既知のすべての問題に加えて、素子構造内部の残留歪みの量がもう 1つの制限になることを報告した(4)。残留歪みはUV素子に使われるAlGaN層の価電子バンド構造を改変し、発光する偏光特性に対してマイナスの影響を与える(5)。現象を複雑にしている原因は、活性AlxGa1xN/AlyGa1yN多重量子井戸構造からのUV光の偏光を、活性層中にある残留歪みの量に応じて、横電場(TE)から横磁場(TM)へスイッチングできることにある。また、温度/基板の選択に対応するスイッチングも発生する。発光がTM偏光の場合はc軸方向(層の成長方向)の光抽出が難しくなり、発光抽出効率が減少し、全体のEQEが低くなる。したがって、前もってAlxGa1xN/AlyGa1yN量子井戸構造のアルミニウム組成と、使用するバルクAlN基板またはサファイア上のAlzGa1zN(x<y<z) テンプレートとの関係を知ることが重要になる。これらの要因が活性層内部の残留歪みの量を決める。理想的な状況では、Al濃度および残 留歪みが、光抽出を困難にする偏光の 発生を引き起こさない。このことは基本的にUV発光の動作波長がいったん選択されると、温度/基板の選択は活性領域とその関係する層構造から決まることを示唆している。このようなことは従来のUVエミッタの設計では起こらなかった。通常の方法は温度/基板による格子不整合と熱不整合の制約条件が許容されるので、どれだけの残留歪みを管理できるかを決めることは難しかった。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/11/1111feature05.pdf