高温超電導の生産を牽引する高出力エキシマレーザ

ラルフ・デルムダール

高温超電導線材の生産に使用される最大1200Wの高出力エキシマレーザは、より高速のパルスレーザ蒸着速度および、その結果としての高速テープ送り速度を確保できる。スループットの増加はそれぞれのPLDのシステム設計に依存し、主としてエキシマレーザの繰返し速度またはパルスエネルギーから決まる。インテリジェントビーム配送と基板‐ターゲット走査の二つのアルゴリズムが、高出力エキシマレーザの最新世代の能力に対する効果を発揮する。ここでは、高温超電導を生産する高出力エキシマレーザの性能を詳しく述べる。

エキシマレーザは最近の10年間に出力パワーと安定性の技術が進歩し、その結果、高温超電導の開発は大きく進展し、その性能は飛躍的に向上した。パルスレーザ蒸着法(PLD)は、第二世代高温超電導体(2G HTS)線材の商業化を目指す有望な技術のなかで、製法の壁を突破し生産の品質と生産能力の確保を可能にする最先端の方法として位置付けられている(図1)。新たに開発された大面積蒸着ビーム方式が従来よりも強力になったUVエキシマレーザのすべての生産能力を引き出し、費用効果に優れた2G HTS導体の市場参入への道を開いている。

図1

図1  同じ送電容量をもつ銅線と高温超電導の断面。

パルスレーザ蒸着が発展を牽引

1987年に超伝導YBCO膜の最初のパルスレーザ蒸着が行われて以来、PLDは種々の複雑材料の蒸着に広く使われる技術の 1つになった。薄膜蒸着用のPLDの最大の利点の 1つは、アブレーションターゲットにおける陽イオン化学量論の再現性にあるとみなされている。最近の10年間に、ほとんどすべての材料の成長が世界中の何百もの薄膜蒸着に関係する研究所で試みられたことは間違いない。金属、半導体、多重化学量論セラミック、例えば、炭素から有機高分子まで、さらに生体試料も含めて、すべての材料が薄層として蒸着された(1)。
 現在の機能性薄膜への要求は、ⓐディスプレイ産業からの透明導電酸化膜(例えばZnOやITO)、ⓑLED産業からの青色エミッタとしてのGaN膜など、ⓒ自動車および医療産業からのダイヤモンド炭素薄膜などの多様な保護被覆、ⓓ新興の超伝導産業からの高温超電導用の酸化物バッファ層とRE系(Y系)超伝導膜に大別される。
 直ちに使用できるPLD真空装置が多数のPLDシステムメーカーから市販され、直径8インチ(200mm)の基板ウエハや長さ100m以上のリール・ツー・リール式基板テープなどを操作する連装置も市販されている(2)。PLD装置、関連部品、監視装置および成熟して信頼性のあるエキシマレーザは、ウエハとテープの両方の配置に対応した装置においてPLD薄膜の工業化を牽引している。

商業化の可能性

高温超電導のリール・ツー・リール方式のPLD生産基盤を確立するには、何百メートルもの長さに対する横方向(面積)と垂直方向(厚み)の蒸着速度の増強が重要になる。新しいエキシマビーム利用法と高度な基板‐ターゲット配置は、増加するエキシマレーザの出力と合わせ、超伝導産業の高速PLD量産システムの基盤を構成して、商業化の実現に向けた高温超電導の費用対性
能比の増加を一貫して追求している(図2)。業界で実績のある設計、たとえばコヒレント社のLAMBDA SXシリーズは、3交代、大面積UVアブレーションや照明のための、安定したパフォーマンスを提供する。
 基板、ターゲット、ビーム操作技術およびエキシマレーザアブレーション光源の進歩によって、PLDは高温超電導の費用対性能比の壁を打破する最も有望な方法の1つに位置付けられるようになった。フジクラは長さ500メートルのテープの端部間において176kA・mの電流密度をもつ高温超電導をPLDによる製造で成功したと発表した(3)。
 一方で、高温超電導のバッファ層と超伝導層の化学蒸着には、有機金属蒸着法(MOD)と有機金属化学蒸着法(MOCVD)があり、いずれにも湿式化学処理工程が含まれる。
 実際のところ、高温超電導が発展し、低温超伝導体(LTS)と従来の導線を上回る市場シェアを獲得するには、現在でも生産能力にボトルネックがあり、現状を大幅に超える生産能力を実現しなければならない。今日の超伝導体を使用する磁気共鳴撮像装置(MRI)は市場規模が30億米ドルであり、世界中のLTS生産能力の半分を消費している。LTS導線の需要について述べると、年間3000台以上のMRIシステムが出荷され、それぞれのシステムには約200kmの導線が使われている。
 このような市場を背景にして、高温超電導製造の単位長は現在の数百メートルから 1キロメートルへの拡大が必要になり、この拡大をテープ全長の端部間の電流密度を損なうことなく実現しなければならない。
 高温超電導の性能‐価格ロードマップによると、今後の2G HTSの世界市場は大きな成長率を示し、2008年の約1億米ドルが2013年には約5億米ドルになると予測されている(4)。

図2

図2  高出力エキシマレーザモデルから得られる出力範囲。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/11/1111feature03.pdf