安全飛行を目標にしたIR防衛システム

ゲイル・オーバートン

標的に迫るミサイルを阻止するために設計された赤外防衛システム(IRCM)は軍用機に標準装備されている。オプトエレクトロニクス技術の継続的な改良により、その採用は商用航空機にも及んでいる。

ミサイルが熱またはプルームを探知して標的へ到達することを阻止するために設計された赤外防衛システムは、一般に、フレア、レーザまたはその他の明るい照明光源と光学系を組み合わせ、空軍機た海軍の哨戒機に搭載されて、ミサイルによる標的の把握を混乱させる。
 今日の赤外防衛システム(IRCM)は、ほとんどの軍用機の標準装備になっている。ホワイトハウスは2005年に、商用航空機ミサイル防衛法と名付けた法案のH.R.2780 とS.1193を上院に提出したが、いずれも法制化されなかった。それにもかかわらず、IRCMは商用航空機の分野でも進歩し、強力なレーザおよび改良されたオプトエレクトロニクス部品とオプトメカニクス部品を使用することで、寸法と重量が減少し、あなたの身近な飛行にも使われようとしている。

IRCM技術

最新のIRCM技術の多くは独自の仕様で開発されているが、それぞれのシステムは基本的に、IRカメラと光学系によるミサイル追跡システム、接近するミサイル、つまり「シーカー」を混乱させる防衛用光源としての「ジャマー」、パターン認識と制御機能をもつデータ処理システムおよび撮像装置と光源を平行移動 /回転する機械的部品から構成されている。
 オランダ・インフラレッドコンサルティング・アンド・モデリング(Netherlands Infrared Consulting and Modeling,NIRCM )の技術コンサルティングを務めるウイリアム・カプラン氏(William Caplan)は、「すべてのシーカーはかなり狭い視野のジェットエンジンプルームを標的とし、検出信号を変調して、ミサイルの飛行方向に関係するエネルギー源の場所を追跡する。ジャマーは追跡する航空機の熱源と同じ視野にある高強度変調光源を使用可能にする(図1)。指向性IRCM(DIRCM)の場合、光源はレーザビームをシーカーに向けるタレット上に取付けられる。ジャマー信号はミサイル追跡エレクトロニクスを混乱させ、その機能を元のIR光源に固定して追尾する」と語っている。カプラン氏によると、異なるシーカーは異なるスペクトル帯、例えば 1~3μmや3~5μmバンドで動作するので、IRCMはすべてのバンドのジャミング信号を送信する必要がある。カプラン氏は「MANPADS(一人で運搬できる航空防衛システム)は20年来ほとんど大きな変更がなく、シーカーの多くは短波から中波の赤外線(SWIRからMWIR)信号を標的にする。幸いなことに、不法(テロリスト)グループは可視バンドの画像シーカーを広く利用できない。それでもなお、IRCMメーカーは敵の戦闘技術が高度化するのに先行して、シーカーの検出バンドを網羅する多重のスペクトルとバンドをもつジャマーを設計する必要がある。MANPADSが標的を2~10秒で検出し妨害できることを考慮すると、ジャマーは効果的かつ迅速に動作する必要がある」と付け加えた。
 米BAEシステムズ社(BAR systems)のIRCMは、砂漠の嵐、ボスニア、コソボなどの数多くの作戦に使われてきた。同社の航空機外フレアを用いる航空機登載ジャマーALQ‐144Aは、新旧両方のIR脅威に対して標的を保護できるが、AN/ALQ-212(V)先進型脅威IR防衛/共通ミサイル警戒システム(ATIRCM/CMWS)はすべてのIR脅威バンドに対する保護が可能となり、点火試験において10種のIR特徴解析モデルすべての阻止に成功している。BAE のIRCMシステムは接近するミサイルを検出し、すべての失敗警報を拒絶し、航空機登載IRジャミングシステムのミサイルの位置に向うジャムに合図を出す。ジャムヘッドがそのIR追跡システムでミサイルを発見すると、高エネルギー IRビームを発射してミサイルのIRシーカーを破壊し、1つ以上のIRジャムヘッドが多数のミサイルによる攻撃を防衛する。
 最初にIRジャミングレーザを構築した米ノースロップ・グラマン社(Northrop Grumman)は、2002年から現在まで、2000Viperレーザを使用している。Viperは周期分極ニオブ酸リチウム(PPLN)を用いるダイオードポンプNd:YAGレーザを使用し、重量が10ポンド以下、サイズが13×2インチのハウジング内で波長変換を行なう。ノースロップ・グラマンはViperを真の多重バンドレーザと名付け、異なる波長をもつレーザの共アラインメントの重要性を強調しているが、すべてのIRCMメーカーと同様に、レーザの変調方式の詳細仕様を公表していない。
 ノースロップ・グラマンのIRCM事業開発部長を務めるジャック・プレッジャー氏(Jack Pledger)は、「このレーザはロックオンを光学的に解除すること
が可能であり、レーザ信号の観測にしたがって、ミサイルの方向を標的から激しく瞬間的に変更できる。標的の熱の特徴強度比に対するジャミング強度の比、つまりJ/Sは、ランプの場合の10/1からレーザを使うことで1000/1に増加し、ミサイル検出の進歩に歩調を合せたDIRCMレーザの必要性が向上した。ツリウムレーザとQCL(量子カスケードレーザ)は、コストと重量の低減およびIRCMの-45℃から+40℃までの動作環境における信頼性の増加を十分に期待できる」と語っている。複数のメーカーが中赤外レーザに挑戦し、その立ち上げを進めている。米デイライトディフェンス社(Daylight Defense)の事業開発部長を務めるエリック・タケウチ氏(Eric Takeuchi)は、「われわれのQCLにもとづくJammIRレーザシステムはノースロップ・グルマンのViper OPO(光パラメトリック発振器)、BAEシステムの多重バンドOPOおよびエルビット(Elbit)のMUSICファイバレーザポンプシステムとはさまざまな点で異なる。QCLを変調アーキテクチャに採用することで、システムは要求に合せた波長とパワーレベルの抽出と選択のインテグレータになった」と語っている。タケウチ氏によると、QCLシステムは非常に少ない部品点数を使用して、信頼性の改善と注入電流からの直接動作を行い、正確な波長での電子の注入と光子の放出を可能にしている。

図1

図1  標準的な商用航空機はエンジンからの強い熱放射が3~5μmの赤外領域に現われ、熱探索ミサイルにとって追跡の容易な標的になる。(資料提供:オランダ・インフラレッドコンサルティング・アンド・モデリング)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/10/1110applied.pdf