接近して観察できる顕微分光光度計

ポール・マーチン

顕微鏡の拡大機能と分光光度計のスペクトル解析機能を組み合わせた顕微分光光度計は、サブミクロン試料の紫外から近赤外までの透過スペクトルと反射スペクトルばかりでなく、蛍光スペクトルと発光スペクトルの測定装置も構成できる。

顕微分光光度計は、分光光度計に顕微鏡の拡大機能を集積したハイブリッド装置として構成されている。このような顕微分光法の装置は、微視的試料あるいは大きい試料の微視的形状の深紫外から近赤外までの分子スペクトルを測定できる。顕微分光光度計は測定装置の構成に依存して、吸収および反射スペクトルばかりでなく、蛍光などの発光スペクトルも測定できる。顕微分光光度計は専用のアルゴリズムを付加すると、薄膜の厚み測定や微視的試料用の比色計としても動作も可能になる。
 このような装置は多数の利点が得られる。その最大の利点は試料の微視的領域のスペクトルを取得できることにある。つまり、これらの装置はサブミクロンの試料を測定できるため、試料は固体と液体のいずれであっても極小量で十分であり、そのための調製は簡単あるいは不要になる。また、試料のスペクトル特性の非常に高いスペクトル分解能でのマッピングにも使用できる。顕微分光光度計は200 ~2200nmのスペクトル領域(ヒトの眼の領域よりも十分に広い)を解析し、照明の変化の補正や光の各波長の強度も測定できるので、顕微分光法による比色は裸眼よりもはるかに高い精度が得られる。さらに、顕微分光光度計は大型の分光光度計にアダプタモジュールを取付けたときに生じる欠点がなく、最小の試料から最高品質の分光データを取得できるように設計されている。もう 1つの大きな特徴はその柔軟性にある。つまり、紫外‐可視‐近赤外(UV‐VIS‐NIR)顕微分光光度計は吸収、反射、蛍光およびその他発光によるすべての画像とスペクトルを同一の装置を使用して取得できる。
 顕微分光法が登場するまでの各種の微視的試料を解析する唯一の方法は、微量化学による試験とある種の視覚検査との組み合わせでであった。残念なことに、これらのプロセスは試料の破壊と大量の試料の使用が必要であり、ヒトの視覚系の不正確さによる影響も受けた。しかし、UV‐VIS‐NIR顕微分光光度計は微視的試料を破壊なしに解析し、眼では識別できない試料の変化を検出できる。もう 1つの問題は解析速度であった。微量化学による試験はいずれの場合も完了までに数分から数日が必要であった。顕微分光光度計はスペクトルをミリ秒で測定できる。

図1

図1  顕微分光光度計は顕微鏡と分光光度計を組み合わせて、紫外‐可視‐赤外の広いスペクトル領域に対応する。

顕微分光光度計の解剖学

最新の顕微分光光度計は高感度の分光計と分光および撮像用に最適化した顕微鏡を組み合せている(図2)。顕微鏡は深紫外から近赤外までのスペクトル領域で良好な画像とスペクトル品質を維持しながら動作する必要がある。標準の顕微鏡は、その光学設計と光源の制約のために、可視スペクトルの一部でしか使用できない。それに対して、顕微分光光度計に専用の顕微鏡は、溶融石英とその他の材料からなる空気充填レンズ系と試料を均等に照明するように設計された配置をもつ紫外増強反射鏡から構成され、装置の設計されたすべてのスペクトル領域において鮮明な画像を生成できる。照明は改良されたキセノンランプ、レーザまたはハロゲンランプと重水素ランプの混合出力から得られる。この紫外‐可視‐近赤外顕微鏡は標準の複合顕微鏡と同様の手法でも動作する。つまり、このような装置の学習曲線は短く、ユーザは異なる方式の分光および撮像実験装置を容易に交換できる。

図2

図2 この概念図は吸収顕微分光法と撮像用に構成した顕微分光分光計の一般的な光路を示している。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/10/1110feature04.pdf