可視光の機能の実現に近づくフォトニック結晶

サウリュース・ヨードカシス、サジェーフ・ジョン

新たなフォトニック結晶の製法は誘電体ホスト構造を自由自在に除去することで高いアスペクト比の3次元構造を形成できる。この方法は可視光フォトニック結晶を実現するための大きな進歩になる。

ヒトの進化は530nmの波長の近傍にある緑色光に対する眼の感度を増大させた。可視光領域の光伝搬、検出および発光を制御し操作できる構造とデバイスの創成は、それらの機能がわれわれの視覚と直に連動するため、いつでも最重要事項になる。また、太陽エネルギー蓄積の形態は、それが炭化水素燃料、光合成により生成された食料、風力や直射光などの再生可能エネルギー資源のいずれであっても、地球が太陽からエネルギーを受領できる特定の波長窓に依存する。このエネルギーの可視スペクトルの主要な部分はわれわれに到達し、われわれの生命を支える。とくに、可視波長の光‐物質相互作用は、われわれの将来の食料およびエネルギー需要に対する答えになっている。
 フォトニック結晶(PC)は光の強力なハンドラーであり、PCを使用すると、光の完全な捕獲や局在化、マイクロチップ上の 3次元回路による散乱と回折損失のない光の導波、光‐物質間における強結合の前例のない形での実現などを含めて、サブ波長スケールでの光制御がさまざまな方法で可能になる(1)、(2)。しかしながら、製作上の困難のために、今までのPCの機能窓は可視光の波長領域に入ることができなかった。
 可視光PCの製作の最大の難しさは、3次元のすべての方向に光波長の半分以下の小さい空間周期をもつ材料を形成し、PCを光透過性ブロック、つまり全方向性フォトニックバンドギャップ(PBG)構造にすることにある。この結晶のPBGは波動の完全な破壊的干渉が起こるため、そのスペクトル領域は光が伝搬しない。しかし、PCの周期的誘電体微細構造の内部に欠陥を配置できれば、欠陥は光の捕獲中心として作用し、そこでは光が局在化される。捕獲された光の閉じ込め体積は波長の3乗よりもはるかに小さく、その寿命は周囲の物質の固有吸収だけに制約される。

100nm以下の構造形成への挑戦

ナノ構造形成への自然界のアプローチはナノスケールのアーキテクチャの自己組織化と構造符号化がDNAレベルで行われる。チョウの羽の物理的構造とその秩序性と無秩序性との微妙なバランスが構造色に関係している(図1)(3)。興味深いことに、この場合の色の見え方は、無秩序性が存在するために入射角の広い範囲に対する全方向性を示す。しかし、ふつうの方法にもとづいて自然に形成される材料とシステムは、PBGの生成、つまり光の捕獲に十分なほどの光を散乱しない。そのため、2よりも大きい屈折率の材料を用いるナノリソグラフィが必要になる。ごく最近、ナノ加工の新しいトップダウンアプローチが開発され、すべての次元の形状が100nm以下のレベルをもつ真のナノスケール構造の製作に適用可能になった。この方法に適した集束イオンビーム法は、直接描画アプローチを使用し、誘電体ホスト材料を自由自在に除去することで、高いアスペクト比の 3次元構造を創成できる。
 イオンビームによる3次元彫刻を用いた可視光PBG PCの製作はやりがいのある研究だが、われわれのグループは、3次元イオンビームリソグラフィ(IBL)と酸化チタン(TiO2)ルチル型結晶の簡単な二段直接書込みによるアプローチを採用して、広くてロバストなPBGをもつ3次元PC傾斜細孔(SP)構造を製作した。単位格子の幾何学形状はPBGが633nm近傍の可視波長で得られるように選択した。独ライス社(Raith GmbH)のionLINE装置による加工法は簡便で、時間と材料をたくさん消費するレジストとマスクのコーティングそれに続く湿式と乾式のエッチングを必要としない。その代わり、ガリウム(Ga)イオンによる直接パターン形成法を使用して、結晶の 3次元彫刻を数十ナノメートルの分解能で行なう。3次元IBLは直接描画を任意の角度から3次元モードで実行できる独自の機能を備えている。

図1

図1 ナノテクノロジーは自然界の高反射構造を生成できる。例えば、モルフォブルーチョウ(モルフォディディウス)の羽の構造は、回折格子構造からの反射とは異なり、全方向性の発色を示す。(資料提供:大阪大学、齋藤彰准教授)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/10/1110feature03.pdf