太陽電池の生産を高速化するレーザ
新世代の Qスイッチ固体レーザは、新しい一連の加工パラメータを使用して薄膜レーザスクライビングを可能にし、アモルファスシリコンPV構造用の高品質スクライビングを約2倍の加工速度で実現している。
世界の太陽電池(PV)の生産基盤は、その大部分が政府の意欲的な刺激策に主導され急速に拡大している。欧州と一部のアジアでは、このような補助金が最終消費者や投資家の大きな魅力となり、PVの経済を刺激している。米国の場合、連邦政府の補助金政策は、その中身がいぜんとして不透明だが、いくつかの州では太陽光発電の採用を加速するための補助金の仕組みが確立されている。また、ドイツと日本の最近の変化は、原子力エネルギーから太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーへの移行を示唆している。その結果、近年はPVにとって活気に満ちた時期となり、発電容量は2006年の1.74GWから昨年の16GW以上へと急上昇し、最近の4年間は75%の複合年間成長率を記録している。このような素晴らしい成長率を前提にすると、PV技術が「グリッドパリティ」、つまり太陽光電力のコストが従来の電力コストと等しくなる点に向けて前進を続けると予想することには妥当性がある。過去の 5年にわたる米国の主要市場の分析では、グリッドパリティが2013年から2018年の間に起こると予測されている。
TFPV加工法の革新
技術から見ると、急速に拡大する市場と生産コスト削減の使命の 2つが急速な革新を牽引し、PVは数十年にわたり二種類の基本技術が探究されてきた。第一の結晶シリコン(c-Si)ウエハを用いる技術は現在の供給量の80から85%を占めている。第二の薄膜太陽電池(TFPV)の技術は生産コストの大幅な低減を可能にすると期待されてきたが、そのエネルギー変換効率はc-Siの効率を大きく下回っている。したがって、TFPVの生産工程の革新は設備投資と運用コストのさらなる低減および歩留り向上に加えて、ソーラーパネルの発電効率の改善が目標であった。
すべてのTFPVパネルはメートルサイズのガラスを標準にした基板上に蒸着される 3層の薄膜から構成される。最初の層は導体を蒸着するが、太陽光を薄膜側から入れるか、基板の背面から入れるかの設計に応じて、それぞれ金属または透明導電膜(TCO)を使用する。積層構造の中間層は半導体の吸収体からなり、その内部では太陽光の光子が電荷キャリアに変換され、二つの外部導体層へ輸送される。第三の層は薄膜の積層構造を完結する金属またはTCOからなる。3つの薄膜蒸着工程と3つのスクライビング工程を交互に行うことで、一体化した直列相互接が実現される。3つのスクライブラインがパネル上の電池セルの端部を決定し、そこでは吸収層中のチャネルによるn番目の上側導体と(n+1)番目の電池セルの逆極性下部導体膜との接続が可能になる。一般にP1、P2、P3と呼ばれる3つのスクライブ工程は、いずれもそれぞれの薄膜層を貫通するが、その下層に損傷を与えてはならない。P1、P2、P3スクライブの幅と相互の横方向距離の最小化は非常に重要であり、その結果として、太陽光を電力に能動変換する太陽光パネルの利用可能な面積が最大になる。
各種TFPV材料をスクライブするレーザの可能性を明らかにする探索研究は1990年代の初めに行われた(1)。2000年代の中頃になると、アモルファスシリコン(a-Si)とテルル化カドミウム(CdTe)を吸収層に用いるTFPVシステムのプロセス開発へと移行した(2)。P1、P2、P3レーザスクライビング工程の詳細はレーザ技術を総括した2000年代末期の論文に記述されたが、これらの工程が大量生産に採用されるには、さらに5年以上の開発が必要となり、現在でもさまざまなレーザパルス特性の効果が研究されている(3)、(4)。
Qスイッチしたダイオード励起固体(DPSS)レーザがTFPVスクライビングに最適な選択肢になることは当初から明らかであった。これらのレーザは数十キロヘルツの繰返し速度が得られ、集束ビームと相対的に移動するTFPVパネルの加工面上に連続パルス列を供給する。各パルスは薄膜をアブレーションし、その領域は直径が25から100μmの範囲(集積TFPV用の場合はさらに大きい)の円形になる。初期の開発研究から、スクライブラインの隣接するアブレーション点はマイクロスケールで見ると、貝殻を重ねたような「大きな重なり」を必要としないことが分かった。
重要な加工性能の検討から、パネル上のすべてのアブレーションスポットを同一に再現するレーザの要件が明らかにされた。それは簡単な概念にもとづいているが、技術的には容易でなく、今日のメートルサイズのパネルを商業生産するには、パネル当たり数百万回のレーザアブレーションスポットが必要であった。簡単に言えば、高い生産歩留りを保証するには、安定性と再現性に優れた高品質レーザが必要になる。今日までのQスイッチDPSSレーザは実際の生産環境のなかで、このような挑戦に対応してきたが、既存のレーザ技術の利用可能なスループットを実現するには、さらなる開発が必要であった。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/09/1109feature04.pdf