50nmの解像度を超えた白色光顕微鏡法

ツェンポ・ワン、リン・リー

新しい白色光顕微鏡は、ミクロスフェアスーパーレンズを使って、その下にある近接場物体を通常の顕微鏡対物レンズへ投影する前に最高8倍にまで拡大することにより、ウイルスや生体分子の新たなイメージングの可能性を提供する。

ガリレオ・ガリレイは1609年に光学顕微鏡を発明した。彼は、凸レンズと凹レンズを備えた“occhiolino”(オチオリーノ;小さな目)すなわち複合顕微鏡を開発した。ガリレオはおそらく最初の顕微鏡発明者ではなかったであろうが、彼の発明は一般的に利用される強力な科学的ツールであり、疑う余地のない人類史上最も重要な科学的業績の1つになった。1873年に、エルンスト・アッベは光学顕微鏡の解像度限界を確立した。1つではなく2つの物体として結像される 2つの構造要素間の最小距離dは、d=λ/(2NA)で与えられるとした。ここで、λは光の波長、NAは対物レンズの開口数である。この制限された解像度の物理的起源は回折だけでなく、物体の高空間周波数サブ波長情報を運び、距離が増すにつれ指数関数的に減衰する遠方場でのエバネセント波の損失も関係している。
 約100年間、アッベの基準が光学顕微鏡解像度の基本的限界であるとみなされてきた。しかし、1928年に基本概念はE.H.シングによって提案されていたが、1970年代~80年代になって近接場走査型あるいは走査型近接場光学顕微鏡法(NSOMまたはSNOM)が実際に開発されたことが光学顕微鏡法の重要なステップになった( 1)。
 ここでは、画像の解像度は照明光の波長ではなく、検出器の開口サイズによって制限される。このNSOM/SNOMの解像度は数10ナノメートルになるが、実際には、小さな開口による低い透過係数や高解像度で結像するのに要する広い試料面積上の長い走査時間によって制限される。
 1990年代の後期に、ナノフォトニクス、プラズモニクス、メタマテリアルの躍進に刺激され、超解像度光学顕微鏡法、いわゆる光学ナノ顕微鏡の研究が急激に進展した。ペンドリー‐ヴェセラーゴ(Pendry-Veselago)のプラズモンメタマテリアルスーパーレンズ、ナノスケール固浸レンズ、非線形蛍光ナノ顕微鏡法などを使った光学ナノ顕微鏡が成功裏に開発された(2)~(4)。しかし、これらは技術的に精緻化されたが、今のところ、使用できる波長帯が狭いので、標準的な光学顕微鏡において白色光源を使って超解像機能を実現するのは至難の業だ。

ミクロスフェアナノ顕微鏡

ミクロスフェアナノ顕微鏡は、その名が示す通り、二酸化ケイ素(SiO2)やポリスチレンなどのありふれた材料でできたミクロスフェアを利用する。良く知られているように、透明なミクロスフェアは超解像集光によって「フォトニックナノジェット」を発生させることができ、この機能は過去10年間にいくつかのグループによってレーザ表面ナノメータ加工(パターン形成、改質)に使用されてきた。われわれは、基板上に堆積した1.0μm直径のSiO2ミクロスフェアアレイと角度走査レーザビームとを組み合わせて、80nm解像度の任意形状パターンの近接場レーザ並列ナノファブリケーションを実証した(5)。これをきっかけに、われわれはシンガポール大学(National University of Singapore)のミンクイ・ホン氏(Minghui Hong)や同大学データストーレージ研究所のボリス・ルクヤンシュク(Boris Luk’yanchuk)教授と共同で、ミクロスフェアを使った光ナノイメージングの研究を開始した。
 具体的な白色光ミクロスフェアナノ顕微鏡設備で、ミクロスフェアを物体の表面上に自己集合的に配置した。入手したままのSiO2ミクロスフェア懸濁液(バングズ・ラボラトリーズ社、BangsLaboratories)を希釈し、滴下または浸せき塗装によってイメージング試料に適用し、そして、この試料を空気中に取り出して乾燥させた( 6)。ピーク波長600nmのハロゲンランプを白色光照明源として使用した(図1)。ミクロスフェアは、その下にある近接場物体の情報を収集し、オリンパス顕微鏡(モデルMX -850)の80Xの同社製対物レンズに投影される前に、それを拡大して元の物体と同じ方向の虚像を遠視野に形成するスーパーレンズ、すなわちミクロスフェアスーパーレンズとして機能する。ミクロスフェアスーパーレンズと対物レンズの組み合わせは複合結像レンズ系を構成する。反射モードでは、白色光源はトップから入射され、透過モードにおけるボトム光源とは逆になる(7)。

図1

図1 図はλ/8からλ/14のイメージング解像度をもつ白色光ミクロスフェアナノ顕微鏡である(伝統的な光学顕微鏡と一体化したミクロスフェアスーパーレンズ)。このミクロスフェアは近接場物体の情報を収集し、その後古典的レンズによって捕らえられる虚像を形成する。

イメージング機構

ミクロスフェアの解像度と倍率は、基本的にそれらの集光特性と通常と異なる光曲げ機能に関連している(図2)。超解像集光はミクロスフェアナノ顕微鏡の主要な要件であるが、イメージング解像度を決定する唯一の因子ではない。光曲げ強度が倍率に影響を及ぼすもう1つの重要な因子である。虚像、すなわち粒子面に接触する点源からの光線は、粒子に向かって強く曲げられ、対物レンズに投影される。ミクロスフェアの焦点サイズと光曲げ強度は(n,q)パラメータの狭いウィンドウの関数である。ここで、nはミクロスフェアの屈折率であり、qはミー理論に従ってq=2πa/λで定義されるサイズパラメータである。

図2

図2 ミクロスフェア(直径= 4.74 μm)の超解像焦点が600nmの波長(a)で示されている。透明なミクロスフェアは異常な光曲げ効果( b)を引き起こす。光はトップから入射されている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/09/1109feature06.pdf