低価格のCMOS検出器を実現したテラヘルツイメージング

フランツ・シュスター、ウォイチェフ・ナップ、バレリー・グエン

安価なCMOSチップの金属相互接続層内のサブ波長アンテナがテラヘルツ放射をチップエレクトロニクスに結合させる安価で小型な撮像装置が作り出された。

長い間、電磁スペクトルは 2種類の技術のいずれか、比較的短い波長に対しては光学、比較的長い波長に対しては高周波エレクトロニクスを使って利用されてきた。最近まで、光学とエレクトロニクスの中間に位置するテラヘルツ領域は実用的な光源と検出器を欠いていたのでほとんど利用不可能であった(図1)。
 今日のテラヘルツ領域に対する強い関心はテラヘルツ放射がもつ特異な特性が動機となっている。テラヘルツ光子のエネルギーは、火薬を含む、いくつかの重い複雑な分子の振動と一致する値、約4meV付近に広がる。このような低い光子エネルギーがテラヘルツ放射を非電離にする。したがって、健康への影響はないと考えられる。
 低いテラヘルツ周波数に対する検出技術は空気や薄い物体の透明性と水の高い吸収係数を利用する。人間、動物、植物などの高含水量対象のイメージングでは布や紙のような乾燥構造を通してさえ高コントラストが得られる。したがって、布の下に隠された金属(反射性)物体の検出も可能である。これらの開発の多くは今日のセキュリティ問題と緊密に関係しているが、将来的には産業分野での品質や食品の管理も大きな市場になるだろう。

図1

図1  電磁スペクトル中のテラヘルツ帯域は光学帯域(比較的短い波長)と高周波帯域(比較的長い波長)の中間に位置し、これまでセンシングやイメージングへの利用が困難であった。

テラヘルツイメージングの限界

画像を取得するには、光学系がシーンの画像を生成しなければならず、それから、この画像位置に置かれた要求波長に敏感な検出器マトリックスが画像の各点における電磁信号のレベルを測定することになるであろう。カメラまたは焦点面アレイ内の画素は、1つの画素が隣接画素によって記録された詳細を見ることがないという意味で独立に動作するように、間隔をおいて配置される。独立な画素であるためには、それらは約0.61×λ×NA(エアリーディスクの半径)の回折法則で決まる距離間隔で配置されなければならない。ここで、λは波長、NAは開口数を意味する。可視光では、可能な最小ピッチはNAを 1とすると約0.33μmになる。テラヘルツ画像の場合は、その波長がかなり長いので、例えば、1THz画像での最小画素サイズは約183μmになる。詳細な画像が必要であるならば、約6×6画素を1平方ミリメートル内に配置するだけで大きな焦点面アレイが形成される。

CMOS画素

自由空間テラヘルツ波から電気検出信号を得るアプローチとして、いくつかが技術的に適正であることが分かっている。そこには、ボロメータやMOSトランジスタが含まれるが、高周波信号を電気低周波信号へ変換するために使用している方法は両者でまったく異なる。
 ボロメータでは、テラヘルツ波がサーミスタなどの温度有感検出器を加熱し、画素上へのテラヘルツエネルギー流の変動によって生じる抵抗変動が測定される。サーミスタは、それが受け取ったわずかなエネルギー量を可能な限り長く保持するために真空中に懸垂しておく必要がある(熱遮蔽)。その構築は特殊でかなり精巧な工程になるので、テラヘルツのほぼ全域に適用できる撮像装置は非常に高感度だが非常に高価にならざるをえない。
 MOSトランジスタに基づく画素は全く異なるアプローチに従う。既存のMOSトランジスタはいずれも1THz程度の高い周波数に対して応答不可能である。しかし、このような低い遮断周波数のMOSトランジスタであっても、トランジスタチャネル内の電荷/電子プラズマの非線形特性を利用すれば、テラヘルツ放射を整流することはできる。テラヘルツ放射は電荷密度を摂動し、プラズマ波や過減衰プラズマ振動を発生させる。その結果、持続的な電圧がソース‐ドレイン間に出現する。最も簡単な場合(低いキャリア移動度と密度)には、このプロセスは特殊なタイプの抵抗自己混合として電子的な方法で解釈することもできる(1)。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/09/1109feature01.pdf