パルス幅100ps、ピークパワー50kWのファイバレーザ

角井 素貴

パルス式ファイバレーザにおいては、非線形効果によってピークパワーは通常制約を受ける。しかし、新たに開発したパルス整形方法を用いて、直接変調された半導体レーザを主発振器としたMOPA構成により、従来得られなかったパルス幅とピークパワーが実現できた。

パルス式ファイバレーザ(PFL)は、優れたビーム品質、高効率、省サイズ、メンテナンスフリー等の多くの利点を有し、微細加工の分野で既に広く普及している。特に直接変調された半導体レーザを主発振器とするMOPA(Master-Oscillator Power-Amplifier)構成を使ったPFLは、パルス幅と繰返し周波数を広い範囲で可変できる特長を有する(1)、(2)。しかし多くの場合、ファイバ中の非線形効果によって、ピークパワーは10~20kWの範囲にとどまり、パルス幅の可変範囲も10nsから数100nsの範囲であることが多く、レーザ加工におけるドロス、デブリなどの熱影響は免れない。こうした熱影響を回避するためには、フェムト秒、ピコ秒領域のいわゆる超短パルスレーザの使用が有効と考えられた。
 今日、多くの超短パルスレーザはモードロック式で実現されており、例としてTi: サファイアレーザや、米イムラアメリカ社(IMRA America)、米レイディアンス社(Raydiance)、カナダのジェニアフォトニクス社(Genia Photonics)、米ポーラーオニキス社(PolarOnyx )など各社のファイバレーザが挙げられる。しかしながらTi:サファイアレーザはサイズと消費電力が大きく高価であることが知られる。また総じて、モード同期は精密な調整を要し、パルス幅は共振器の構造(共振器長、利得帯域)によって制限される。再生増幅器とチャープパルス増幅(CPA)機構を併用すれば、構成は更に複雑となり、サイズ、コスト、消費電力に影響が生じる。また注意すべきは、実際のレーザ加工においては加工対象は金属、樹脂、ガラス、セラミックと多様であり、かつこれらが複合的に用いられるケースも多く、超短パルスが必ず良い結果につながるとは限らないことである。例えば薄膜太陽電池の1層目として一般的に用いられるSnO2膜の除去に際しては、むしろナノ秒パルスが適することが知られている(3)。
 多様な加工対象に対して最適な加工品質を得るには、パルス幅がピコ秒からナノ秒領域まで広く可変で、かつサイズ、コストの実用的なレーザが求められる。このために住友電気工業は、サンフランシスコにて開催されたPhotonics West 2011において、多様な動作モードを特長とするパルス式ファイバレーザSumiLasを発表した。本ファイバレーザは1060nmで動作し平均出力は15Wである。標準モード、短パルスモード、長パルスモードの 3つの動作モードを備え、標準モードにおいてはパルス幅を1nsから20nsの範囲で、短パルスモードでは60psから1nsの範囲で可変である。更に長パルスモードでは、1μsのパルス幅で動作が可能である。いずれのモードでも繰返し周波数は100kHzから1MHzまで設定可能である。更にパルス幅1nsから2nsで動作する530nm版のラインナップも有している。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/08/1108feature05.pdf