非線形液体を選択的に充填したフォトニック結晶ファイバ

マリウス・ヴィーヴェグ、ティモ・ギッシビル、ハラルド・ギーセン

フォトニック結晶ファイバの空孔に光学的に非線形な液体を任意のパタンで充填すると、ソリトン伝搬やスーパーコンティニュアムの発生などの特性をもつ汎用デバイスが得られる。

フォトニック結晶ファイバ(PCF)の空孔を充填してファイバの特性を変えるという概念は、さまざまな光学場において非常に多くの興味を集めてきた。充填材料としては、気体、金属、液体などを利用することが可能である( 1)~(4)。非線形光学の場合、液体は非線形光学係数が大きく、高い非線形性をもたらす可能性があるため、最も興味深い充填材料になっている。分散と高非線形性を同時かつ完全に制御するためには、PCFの構造と液体の非線形光学特性との組合せが非常に好ましい( 5)。
 われわれはPCFにトルエンや四塩化炭素(CCl4)などの非線形液体を選択的に充填する方法を開発し、ファイバを伝搬するソリトンのスペクトル広がりを測定した(6)。また、PCFの内部に液体導波路アレイを形成することによって、この方法の汎用性を示した。

毛管力による空孔の充填

3次元(3D)直接レーザ書込み技術は個別空孔の選択的封止に用いられる( 7)。この方法は、まず、PCFのすべての空孔をエポキシポリマで被覆する(図1)。次に、個別の空孔にフェムト秒レーザパルスを集光し、その二光子吸収を利用して、エポキシポリマの架橋を行う。この二光子過程は硬化容積を3D制御できるため、レーザ強度によるボクセル(立体構造のピクセル)の拡大縮小が可能になる。この加工の難しさは個別の空孔への集光を正確に行い、隣接する空孔への影響を避けることにある。このようなファイバを簡便に作製するために、われわれは自動化された直接レーザ書込み技術を開発した。
 作製の次工程はさまざまな液体を用いたファイバの空孔の充填になるが、この場合の液体は毒性と透明性だけが制約条件になる。二硫化炭素を用いると、PCFの非線形性は石英ガラスの約200倍にまで増強される。われわれは非線形性と無毒性の好ましいトレードオフが可能になるトルエンとCCl 4を選択して実験した。トルエンとCCl 4の屈折率はそれぞれ1.48と1.45であり、ファイバ材料の屈折率に比べるとわずかに高くなる。その結果、トルエンまたはCCl4をファイバに充填すると、そのd/Λ比は小さいため、ホーリー領域の有効屈折率は石英ガラスと同等になり、導波特性が失われることはない。とくにCCl4を使用すると、ほとんど全ての状況で基本モードの伝搬が可能になる。
 空孔は毛管力によって充填される。液体に加えて、空孔の径と空孔間の距離を適切に選択すると、近赤外から600nmまでの波長範囲の実験に対して、ゼロ分散波長を調整して設定できる。PCFの2D構造を利用すると、導波路のいくつかの配置が任意のパタンで可能になり、所望の性質をもつ離散構造の光導波路を形成できる。

図1

図1  作製工程は、まずへき開したファイバ端面をポリマで完全に被覆する(a)。次に二光子過程を用いて、空孔から空孔への架橋を行う(b)。最後にファイバ端面を洗浄して充填の準備をする(c)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/08/1108feature03.pdf