赤外線カメラの設計を進化させる圧縮センシングアーキテクチャ

リチャード・G・バラニウク、ケヴィン・F・ケリー、サンジェイ・クリシュナ、ロバート・F・ブリッジ

量子ドット、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの新しい検出器材料を使用し、圧縮センシングアーキテクチャを採用すると、赤外線カメラの性能は大幅に改善され、開発サイクルも短くなる。

超格子、量子ドット、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの新しい検出器材料を利用した赤外線(IR)カメラは、検出器雑音の低減、感度の向上や検出器を冷却する必要性の緩和などが可能になり、性能が大幅に向上する。しかし、これらの検出器材料を使用してメガピクセルの焦平面アレイ(FPA)を作製するには、長期の開発サイクルが必要になる。圧縮センシング(CS)技術を採用したCSカメラは、単一画素の検出器を使用し、高画素数のFPAを必要としないため、そのライフサイクルの初期において、新しい検出器材料の導入が可能になる。

IR検出技術

波長が1μmを超えると、CMOS材料は感度が消失し、FPAの構成が不可能になるため、IRカメラはCMOS材料を使用できない。CMOS以外の検出器材料の材料科学はCMOS材料に対して何十年も遅れをとっており、そのためにIRカメラは高価であった。IRカメラに使われる検出器材料は高いコストや暗電流雑音など、さまざまな限界をもつため、その克服を可能にする新しい材料の開発が進行している。
 現在の高性能IR検出器は、中波赤外線(MWIR)領域(3~5μm)ではバルクのアンチモン化インジウム(InSb)が、長波赤外線(LWIR)領域(9~12μm)ではテルル化水銀カドミウム(MCT)が主流になっている。これらの半導体はいずれも適切な帯域にバンドギャップがあり、バンドギャップ以上の波長の入射光子は、通常のバイアスされたp-n 接合の場合に、光誘起キャリア(伝導バンドの電子と価電子バンドの正孔)を生成する。このような内部キャリア場をもつバンド間デバイスは光起電力検出器と呼ばれる。これらの高性能検出器は冷却し、熱プロセスに関係する暗電流を減らす必要がある。

新たなIR検出器

量子井戸遷移にもとづき量子井戸IR光検出器(QWIP)と呼ばれるサブバンド間デバイスは、LWIR領域における使用が有望視されている。ごく最近のQWIPは光伝導モードで動作する。このデバイスのエネルギーバンドは外部バイアスを加えると傾斜し、入射光子がバンド間準位と共鳴して吸収され、発生したキャリアが捕集される。しかし、QWIPはバンド間遷移の性質をもつため、暗電流が大きく量子効率が低いことが問題になる。その性能の改善を目的にして、波形QWIP、低雑音QWIP、増強QWIP(E-QWIP)などのいくつかの解決策が開発された。
 過去10年間、量子ドットのバンド間遷移にもとづくIR検出器も大きな関心を集めた。これらの量子ドットIR光検出器(QDIP)は、その3次元閉じ込めと散乱減少による長寿命化によって、暗電流が減少すると期待されている。さらに、最近ではQWIPの利点(動作波長の全体制御など)とQDIPの利点(垂直入射動作、寿命の増加、3次元閉じ込めなど)を組合せた井戸内量子ドット(DWELL)検出器が提案されている(1)。また、ヒ化インジウム/アンチモン化インジウムガリウム(InAs/InGaSb)材料系のタイプII歪層超格子(T2SL)のミニバンド遷移に基づく非常に有望な技術も現われている(2)。この技術は大きな量子効率が得られ、III-V半導体技術との互換性がある。しかしながら、この材料系を用いて高性能FPAを実証するには、側壁面の注意深いパッシベーション加工が必要になる。

方式を変える圧縮センシング

高解像度のCSカメラは画素数が数個、場合によっては単一画素の検出器を使用する。CSカメラは高画素数のFPAを必要としないため、FPAを設計する場合に比べると、新しい検出器材料を早い段階から利用できる( 3)。
 CSアーキテクチャは、画像の取得後ではなく、取得時に圧縮されたデータを取込む。通常のカメラは、大抵の場合、データの蓄積や伝送のために大量の生データを取込み、直ちに圧縮しなければならない。このプロセスには二つの大きな欠点がある。第1に、大量の生画像データ(大量の画素N )取得は高価になる可能性がある。これはCMOS検出器を使用できないIR波長では顕著である。第 2に、生データの圧縮には計算上の要求が多い。幸いなことに、これらの問題はCSを使うことで回避できる。CSカメラは最初に Nの画素数を取得しなくても、ランダムな投影像を直に取得するため、画素数よりもはるかに少ない回数で、画像を測定しながら、単一検出器素子による撮像を行うことができる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/08/1108feature01.pdf