気候変動問題に新しい光をあてるICOS同位体比測定

2007年夏の北極海氷の劇的な減少は予測不可能なことであり、何人かの科学者によれば、科学モデルで評価することもできなかった(1)。永久凍土層や海洋の温度上昇によって放出されるメタンや二酸化炭素といった気体の定量分析は、大気圏に対する全炭素負荷量を決定するために必要だ。しかし、メタンが放出される速度と、メタンを生成する有機物の発生源およびその時期ははっきり分かっていない。
 既存のリモートセンシングとフラックスモデルは、広い北極圏領域の気体の正確な空間的・時間的分布を測定するには不十分である。また人間の活動によって大気中に放出される年間8Gtの炭素に加えて2000Gtもの多量の炭素が北極圏の土壌と海洋に含まれている。このことから米ハーバード大学の研究チームは、分光同位体比測定を使ってより正確な炭素測定を実施し、国家的な炭素モニタリングネットワーク基盤の構築を提案している(2)。

ICOS法

ハーバード大学で開発された軸外し集積キャビティ出力分光法(ICOS)技術と球形ヘリオットセルを使用した炭素計器は、メタン(12CH4、13CH4)または二酸化炭素(12CO2、13CO212CO18O)の安定同位体の同時測定を可能にした(3)。これらの同位体を使えば、炭素12(12C)に対する炭素13(13C)の比、いわゆるδC13を計算することもできる。このδC13値は、天然ガスや石炭のような炭素源を人工的に燃焼するのと、沼沢地や動物、細菌放出など自然の生命活動によって発生したものとで異なる。そしてICOS法を使って1秒で1.0‰(パーミルまたは1000分の1)、200秒で0.1‰の精度で測定できる。この精度は大気中の炭素源を正確に同定するのに必要な精度である1.0‰よりも高い(図1)。このシステムの経路長の10から100倍の増加によるICOS法の感度と時間応答のブレークスルーによって、飛行中の航空機からの同位体炭素の測定が可能になった。ICOS計器は、浜松フォトニクス社製の7.7μm連続波量子カスケードレーザからの光を閉じ込めるための2枚の高反射率(99.967%)セレン化亜鉛ミラー(直径10cm、曲率半径140mm)から構成される、高フィネス光共振器を備えている。1から10μsのオーダーでの有効経路長は50cmのミラー間距離の1000倍になる。

図1

図1  同位体比測定は、大気中の異なる炭素源の区別に利用することができる。正確な測定のためには1‰よりよい精度が必要であり、集積キャビティ出力分光法(ICOS)計器を使えば200sの測定時間で0.1‰の精度が可能である。(資料提供:ハーバード大学)

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/07/1107wn01.pdf