CMOS技術によって研究レベルを超えるハイパースペクトル撮像

アンディー・ランブラシュツ、クラース・タック、フランセスコ・ペソラノ

CMOS準拠製法にもとづくハイパースペクトルカメラモジュールが開発された。高価で大型の光学部品を必要とせず、研究室レベルから産業分野への展開を可能にする。

マシンビジョン分野の新技術としてのハイパースペクトル撮像は、短期的には光学的選別や再生利用、長期的には生体内の癌の診断用小型ハイパースペクトルカメラなど、さまざまな分野への応用が期待されている。ハイパースペクトル撮像がいくつかの分野へ応用可能であることは、研究室の実験レベルにあるいまだに大型の撮像装置を用いて実証された。しかしながら、産業用の画像処理に適用できる仕様を備えた高速かつ小型で低コストのハイパースペクトルカメラは存在しないため、それらの産業における利用は限定されている。研究室レベルから産業分野への応展開を可能にするには、いくつかの障害を乗り越えなければならない。

新しいスペクトルの概念

ベルギーの研究センターのアイメック(Imec)をはじめとするいくつかの研究機関は、現在のシステムのように高価で大型の光学部品を必要とせず高品質かつ高速の経済的なハイパースペクトルカメラの構成方式を探究している。これらの挑戦的な目標を実現するために、アイメックの研究者たちはスキャナとしての機能をもつ集積ハイパースペクトル撮像モジュールを開発した。このモジュールは物体の画像を撮像装置に自動的に変換し、完全なハイパースペクトル画像を取得する(図1)。
 ハイパースペクトルの画像は三次元(3D)のデータ系列(2つの空間次元と1つのスペクトル次元)から構成されるため、二次元(2D)センサによって取得するための分離が必要になる。既存のカメラはライン走査技術を用い、同時に異なる波長で対象シーンの 1本のラインを取得する。他には単一波長によって全シーンを取得する方法がある。この場合はそれぞれの波長による順次走査が必要になるが、測定に時間がかかる。アイメックのハイパースペクトルモジュールは、異なる波長においてシーンの異なるラインを同時に取得する、空間/スペクトルの混合モードを使用する。このことは、スキャン動作とともに、モジュールのすべてのスペクトルフィルタによって、すべてのラインが取得されることを意味している。
 このようにスキャンプロセスが新しいことに加え、光学フィルタがアイメックのCMOSを基盤としたハイパースペクトルイメージセンサとモノリシックに集積されている。つまり、光学フィルタはイメージセンサ上に直接形成されている(図2)。このような高密度集積化を実現するためのフィルタ構造の設計は、集積回路(IC)用に開発された先端技術を利用しなければならない。そしてその結果として、イメージセンサの動作を損なわない材料と温度を使用しなければならない。実際には材料の選択(必要な波長範囲に依存する)と材料の互換性が課題になる。平坦化、表面調整、屈折率操作などの一連の加工プロセスは、必要な寸法および目標とする光学的性能と信頼性の達成を見すえた開発が必要になる。
 イメージセンサとハイパースペクトルフィルタ構造の組み合わせによって、設計が簡素化される。そのコストはプリズム、回折格子、レンズといった光学部品を個別に製作し、その後にイメージセンサやハイパースペクトル素子と一緒に組み立てるハイブリッドシステムよりも低くなる。ハイブリッドシステムの全部品のアラインメントは性能を確保するために必須だが、その組立と較正にはコストがかかる。ハイパースペクトル素子は異なる要素部品をモノリシックに集積するため、組み立ての不要な単一部品を製作できる。われわれのフィルタ構造はCMOSプロセスだけで済むように、蒸着、パターニング、エッチングなどの製作工程を設計している。これらの加工プロセスにイメージセンサの通常の生産フローを付加すると、高価で間違いを起こしやすく人手のかかる組立工程を回避できる。IC生産工程が最高のプロセス制御と精度を用いることで、二つの部品の非常に正確で信頼性のあるアラインメントが可能になり、生産フローの統合による全体コストの劇的な低減が実現される。

図1

図1  従来のハイパースペクトルカメラ(a)と新しい集積システム(b)の概念図を示している。新しいシステムは対物レンズがイメージセンサおよびハイパースペクトルフィルタ構造と組み合わされ、後処理はイメージセンサ上でじかに行われる。

図2

図2 このウエハには多数のハイパースペクトルフィルタモジュールが含まれている。多数の画素列(挿入図)は分離されてフィルタモジュールとなり、それぞれの装置に実装される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/07/1107feature05.pdf