超高速テラヘルツ光源の進歩をもたらす光伝導エミッタ

ジャレド・ワールストランド、トーマス・デコルシー、グレゴール・クラット、スティーブン・カンディフ

テラヘルツ放射に使われる高繰返しフェムト秒光源の最近の開発は、放射効率の改善の可能性を示し、光伝導エミッタが重要なテラヘルツ光源になることを示唆している。

テラヘルツ(1THz=1012Hz)周波数領域はマイクロ波と赤外線の間にある。このテラヘルツ領域において検出できる分子の振動励起は化学分析に有用であり、工業計測機器や国家防衛の用途に使われている。テラヘルツ放射の短いパルスと電気光学サンプリングを組み合わせた時間領域分光法は、媒質の遠赤外応答の実部と虚部の同時超高速測定を行うことができる(1)、(2)。テラヘルツ放出モード同期フェムト秒レーザはまだ利用できないが、容易なテラヘルツパルス発生の方法には、光波領域のモード同期レーザの利用が含まれる。1ピコ秒以下の継続時間をもつ短いテラヘルツパルスは、サブピコ秒の光パルスの強度エンベロープを探知する電場に相当する。
 現在は、テラヘルツ周波数の非線形光学の研究に用いる、高ピーク出力テラヘルツ光源の開発が活発に行われている。線形分光法の場合は、ピーク出力ではなく、平均出力が重要になる。高繰返し速度(50 ~1000MHz)のフェムト秒光源は、レーザ増幅システムの光源よりも簡単かつ安価であり、雑音も少ない。2台の同期したパルスレーザを使用し、その 1つをテラへルツパルスの発生に、もう1つをテラヘルツ電場の検出に使うと、機械的な駆動部品のないテラヘルツ分光法の構成が可能になる(3)。ここでは半導体にもとづく高繰返し速度テラヘルツ光源について、最近の開発のいくつかを議論する。この急速に成長する分野で進行している近年の開発のすべては議論できないため、その数例を取上げる。

光導電エミッタ

光パルスからのテラヘルツ放射の発生には、2つの基本的な機構がある。より簡単な機構は光整流にもとづいている。反転対称性のない透明媒質の場合は、強い光パルスが双極子電荷分布を誘起し、誘起された双極子は光パルスと一緒に移動して、テラヘルツ波を放出する。一般に、ワイドギャップ半導体のテルル化亜鉛(ZnTe)、またはDASTのような有機非線形結晶が使われる。光整流は簡単な動作に利点があり、モード同期レーザから結晶への集束ビームの入射だけが必要になる。結晶の光吸収による、実現可能な帯域幅の制約が欠点になる。また、光整流は位相整合が必要になる。つまり、短いテラヘルツパルスを効率よく発生させるには、光パルスの群速度とテラヘルツ波の位相速度を整合しなければならない。ここで重視する第二の発生機構は、光導電放出にもとづいている( 4)。この場合のテラヘルツパルスは半導体に衝突した光パルスから発生した光励起キャリアの加速により放出される。この場合の半導体と光パルスは、一般に、ヒ化ガリウム(GaAs)とTi:サファイアレーザパルスの組み合わせ、またはファイバレーザとヒ化インジウムガリウム(InGaAs)の組み合わせが使われる。半導体内部に存在する電場からはテラヘルツ放射バーストを放出する電流渦が生成されるが、テラヘルツパルスはバイアス場の方向に偏光しているため、テラヘルツ放射は最適化されていない。したがって、テラヘルツ放出の伝搬方向は試料の面内になり、外部への放射が難しくなる。そのため、バイアス場は一般に半導体表面の面内に向く横方向場が使われる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/07/1107feature03.pdf