超高速可視パルスを伝送する中空コアファイバ

ピーター・モーズリー

超高パワーフェムト秒パルスを歪みなしに伝送する中空フォトニックファイバの機能は赤外から可視光の領域へと拡張され、ファイバによる緑色パルスの圧縮がソリトンの形成とピーク出力パワーの増大を可能にしている。

最近の10年間、フォトニック結晶ファイバ(PCF)は導波フォトニック非線形光学に大きな変革をもたらした。周期クラッド構造、つまり石英ガラスマトリックス内部の空気ホールの規則的分布からなる構造による光の閉じ込めによって、光ファイバの線形と非線形の両方の性質は、まったく新しい方法による制御が可能になった。
 PCFにはさまざまなファイバ構成や幾何学形状および導波機構がある(1)。例えば、高い非線形性をもつPCFのコアは石英ガラスからなり、そこで光は周囲の空気ホールとの高い屈折率コントラストによりしっかりと閉じ込められる。この方式のPCFはスーパーコンティニュアムとして知られる超広帯域光の現象論的発生に大きく成功している。ファイバの高い非線形性のために、伝搬するポンプパルスのスペクトルは急速に広がり、紫外線の端部から近赤外線にまで広がるスーパーコンティニュアムが生成される。

ファイバの非線形性

高非線形性PCFは超広帯域光の発生に理想的だが、その非線形性のために、超高速パルスを歪みなしに伝送することは難しい。スーパーコンティニュアムの発生過程では、その結果として広く分布した周波数成分が分散により細かく分裂し、それぞれのポンプパルスはいくつかのサブパルスに分かれる。これは極端な事例だが、同じ問題はすべてのファイバ(PCFまたは従来のステップインデックスファイバ)に発生するファイバの非線形性はバルク媒質の非線形性と密接に関係するので、光学モードは主としてガラス内部を伝搬する。このモードは比較的狭い領域に閉じ込められ、モードエネルギーがそれほど大きくない超短パルスであっても高いピーク強度に到達し、ファイバからは強い非線形応答が現われる。その結果、スペクトル広がりは時間的に大きく歪み、それに応じたピークパワーの減少が起こる。
 これらの非線形効果は固体コアファイバの効率を制約し、高パワーフェムト秒光パルスの伝送が必要になる材料加工や非線形イメージングをはじめとする多くの応用分野において障害になる。最近注目されている応用分野の一つとして、生体内非線形イメージング、とくにコヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)にもとづく顕微鏡法がある。この技術は超高速光パルスを照射した試料の非線形応答を測定するため、メートルスケールのフレキシブル内視鏡の出口からの超短光パルスの出射が必要になる。内視鏡内のファイバからのすべての非線形応答は出口のピークパワーを減少させるため、信号強度の減少に加えて、試料からでなくファイバからの新しい周波数成分をもつ付加雑音の発生を引き起こす。したがって、このような測定には非線形性が特徴的な固体コアファイバは適していない。

中空コアによる非線形性の低減

この問題は、フォトニック結晶ファイバを使用し、光のほとんどが中空コアの内部を伝搬するように構造を操作することで解決できる。この場合、コアの材料屈折率はクラッドよりも低いので、屈折率コントラストに依存しない機構にもとづく光の閉じ込めが必要になる。英バース大学(University of Bath)は1999年に、対象とする波長範囲にわたるフォトニックバンドギャップをもつPC構造を試作し、中空コアPC(FHC‐PCF)による光の導波を初めて実証した(2)。中空コアファイバは空気/ガラス界面の多重反射による干渉が生じるので、バンドギャップ内の波長はクラッド内を伝搬しない。その結果、これらの波長はコア内にトラップされ、比較的広帯域の低損失導波が可能になる。最新のファイバでは透過波長の中心値の20%までの帯域幅が得られている。
 このことは高強度の超高速光パルスの導波において深い意味をもつ。HC‐PCFの場合、光学モードの90%以上は空気中を伝搬するので、固体コア屈折率導波ファイバに比べると、その非線形性は何桁も小さくなる。この低い非線形性のために、ファイバ内を伝搬する高強度パルスの歪みはかなり小さくなる。
 さらに、バンドギャップ導波HC‐PCFの群速度分散(GVD)は、透過波長窓のほとんどの領域において異常を示す(短波長の伝搬速度が長波長よりも速くなる)。この性質を利用すると、ファイバの長さ方向に伝搬する超短パルスの圧縮が可能になる。小さな残留非線形性からはわずかな自己位相変調(SPM)が誘起され、新しい周波数成分、つまりパルスの先端部での赤色離調と尾部での青色離調が発生する。一方で、異常分散の効果により、これらの新しい成分はパルスの中心方向へ移動する。そのため、SPMと異常GVDを注意深く並置することで、超短パルスの圧縮と、時間ソリトンの形での歪みのほとんどない伝送が可能になる。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/07/1107feature01.pdf