IR焦点面技術を超えるアモルファスシリコンボロメータ

チャールズ・ハンソン

アモルファスシリコンボロメータ技術は性能改善が多少遅れがちであった。しかし、材料の改良と画素サイズの縮小によって次世代の非冷却赤外線画像処理ではおそらく首位を行くであろう。

35年前、熱画像は近代戦に欠かせない実現技術として登場した。しかし、当初、撮像装置のコスト、サイズ、重量によって、商用および民生用のアプリケーションからの関心は得られなかった。その後、1990年代の中期に入って、米テキサス・インスツルメンツ社(TI)は、感知材料の組成によって名付けられた強誘電体デバイス、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)センサを投入して商業市場を開いた。当初の市販製品は自動車用ナイトビジョンシステム、警察用の車載ルーフトップ熱探知カメラ、消防士向けハンドヘルド式熱探知カメラ、熱防犯カメラなどである。
 あいにく、BST技術は性能に限界があり、スケーリングも困難であった。この技術は後継技術に勝る画質で画像を形成するものの、感度向上の競争にはついて行くことができなかった。さらに、BST検出器は、製造時に一つの検出器アレイを個別の読み出し集積回路へボンディングする必要があるハイブリッドデバイスのため、画素サイズを縮小する能力に限界があった。エレクトロニクスは小型化が可能かもしれないが、システムサイズは結局、オプトメカニカルチョッパの必要性によって決まってしまう。

マイクロボロメータの登場

これらの諸制約の結果として、酸化バナジウム(VOX)マイクロボロメータがBST検出器に置き換わり始めた。マイクロボロメータ焦点面アレイ(FPA)は、小型のVO X 抵抗素子もしくは画素のアレイであり、微細加工された構造によって、各々が環境および互いから熱的に分離されている(図1)。これらの素子(画素)の一つが赤外(IR)放射を吸収したとすると、その温度はそれに応じて変化する。一定の光束変化に対
する温度変化が最大になるように、細長い脚が熱的分離を実現する。温度が変化すると画素の抵抗が変化し、この抵抗変化を読み出し集積回路(ROIC)が読み込む。
 マイクロボロメータは、米ハネウェル社(Honeywell)が最初に開発し、その後、他の多数のメーカーにライセンスが供与された。BSTの限界を踏まえて、TIはVOXの代わりにアモルファスシリコン(a-Si)に基づく独立したマイクロボロメータの開発に着手した。TIは、BSTの限界を克服するための単純なアップグレードとしての薄膜強誘電体(TFFE)技術も開発した。しかし、BST製品は米レイセオン社(Raytheon)がTIの国防部門を買収した後も市場をリードしたものの、急成長している分野ではマイクロボロメータがかなりの占有率を獲得した。2004年に、レイセオン社はBST、TFFE、マイクロボロメータなどの一連のTIの非冷却IR技術を米L-3コミュニケーションズ社(L-3 Communications)に売却した。L-3社は、結局、2009年にBST生産を中止し、ほぼ同時にTFFE技術も製造困難を理由に開発を中止した。

図1

図1 顕微鏡写真はマイクロボロメータ焦点面アレイ(FPA)における典型的な微細加工構造を示す。画素はROIC上に懸垂され、細長い脚が画素の熱的分離を実現している。

期待以上のa-Si

現在はL-3社の製品であるa-Siマイクロボロメータも、イメージングを意図しないニッチ技術としてスタートした。その性能可能性の当初の評価も控え目であった。しかし、開発が進むにつれ、抵抗の温度係数(TCR)がVOXで達成可能なそれよりもはるかに大きくなり得ること、1/f 雑音が適切な蒸着プロセスを使うことによって抑制できることが明らかになった。さらに、a-Siボロメータ画素に使われているすべての材料が標準CMOS処理を使って容易にエッチングできるため、熱的分離も競合するVOXデバイスのそれに比べてはるかに改善することができた。
 L-3社のa-Siボロメータが競争力のある性能をもつために残る障害は動作モードであった。VOXマイクロボロメータは、CMOSが揺籃期にあった頃に開発されたため、画素単位セルごとの信号積分は不十分なキャパシタンスにより選択肢に入らなかった。さらに、定電流源を使って画素にバイアスをかけ、行をアドレスして読み出される列を選択する一対の直交マルチプレクサを使って信号電圧をサンプリングする方式は比較的容易であった。ワット損を最小化するために、電力は一定の行が選択されている時間帯にだけ適用、つまりパルスバイアスを適用した。これは、単位セルごとの増幅器の必要性を排除し、かつワット損を避ける賢明な方式であった。増幅器は単位セルごとの代わりに列回路内の各列に一つ配置され、その結果、低雑音と直線性の要求の実現に必要な大きなスペースが確保された。VOX画素の低インピーダンスはこの動作モードに良く適合していた。
 TIがa-Siマイクロボロメータの開発を開始したのはかなり遅かったが、すでに最先端CMOS技術を所有していた。また、a-Siのインピーダンスはパルスバイアス印加を安易に実施するには大きすぎた。結果として、今や、L-3社のa-Siマイクロボロメータは定電圧バイアスが連続的に印加され、信号電流が単位セルごとに積分される。高密度CMOS回路を使ったとしても、キャパシタンス密度は高効率で積分するには不十分であった。この限界を簡単に解決する方法は、単極抵抗コンデンサフィルタ(R-Cフィルタ)を模倣したスイッチドキャパシタ(S-C)フィルタであった。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/06/1106feature04.pdf