生産が可能になった高出力VCSEL

ジャン‐フランソワ・スーリン、ロバート・バン・レイバン、チュニ・ゴーシュ

VCSELアレイの高信頼性、スペクトル安定性、高温動作、簡易実装、低コストなどの確かな品質は、レーザ励起、閃光ランプへの置換、照明などのさまざまな応用の利点になる。

高出力垂直共振器形面発光レーザ(VCSEL)技術は長年にわたり開発が続けられてきたが、ようやく技術が成熟し、現在の応用には閃光ランプへの置換を含めた高出力固体レーザ励起、高エネルギースペックルフリー照明、材料アブレーション、医療などが含まれている(1)。この技術は、需要が多いアプリケーションで、既存の端面発光レーザを置き換えつつある。ユーザは高出力VCSELアレイを追求し、そこでは、はるかに高い信頼性レベル、より高い動作温度、良好な品質のフラットトップビームプロファイル、より簡単なパッケージング、より低いコストが要求されている。現在の、垂直共振器形レーザアレイでは、一辺がわずか数mmのアレイから、連続波(CW)では数百W、疑似CW(QCW)では800W以上の出力が得られている。

VCSELの出力レベル

VCSELはウエハ上にエピタキシ成長した二つのミラーが多重量子井戸の利得媒質を挟んで配置される(1)。現在の単一VCSELではマルチモードデバイスが5W、シングルモードデバイスが1Wの最大出力を得ることができる。マルチモード2次元(2D)アレイは0.22cm2の発光面積をもつ5×5mmチップから、976nmの励起波長で、1kW/cm2のパワー密度に相当する230WのCW出力(熱反転の制約を受ける)が得られる。このような2D VCSELアレイは、狭いスペクトル線幅(0.8nm)、発光波長の安定した温度依存性(0.07nm/K)、光学系を必要としない円形で均一な低発散ビーム(17°の全発散角)を含めた望ましい性質が実証されている。対照的に、一般のエッジエミッタは3~5nmのスペクトル線幅をもち、発光波長が温度に強く依存し(約0.33nm/K)、楕円の高発散出力ビーム(一方向の発散角は35°以上が多い)を放射する。100W以上の出力が得られるシングルモードVCSELアレイも作製され、主として狭い発散角を必要とする照明用途に使用されている。
 高出力2D VCSELアレイをQCW動作で使用すると、はるかに高いパワーレベルとパワー密度が得られる(図1)。976nmの発光用に設計されたチップサイズ5×5mm(発光面 積0.22cm2)の2D VCSELアレイをQCW動作したときの出力パワーは800Wを超え、そのピークパワー変換効率は500Wの出力において52%になる。さらに、特定のQCW励起用途に対して重要な250μsパルスの場合は一定の出力パワーレベルを維持できる。
 半導体励起レーザや発光体を屋外またはその他の苛酷環境下で使用するユーザの場合は高温動作が重要になる。VCSELアレイの高温動作機能を利用すると冷却装置が不要になり、自動車エンジンの冷却とまったく同様に、簡単な送水ポンプ、ラジエータ、ファン冷却などで代行できる。実際にVCSELは最高200℃の温度での動作が実証されている(2)。対照的に、固体レーザを端面発光レーザで励起するときは冷却装置が必要となり、励起ダイオードの波長ドリフトを防ぐには、水温を狭い範囲に維持しなければならない。

図1

図1 2D VCSELアレイ(a)は多数の個別VCSELデバイスから成る単一チップとして構成され、並列駆動して光出力を増大させる。975nm近傍での発光用に設計された5×5mm高出力2D VCSELアレイは、QCW動作下において800W以上の光出力パワーを示す(b)。52%の最大パワー変換効率点(500W出力パワーの場合)の時間分解出力パワーは250μsパルスの時間内に「低下」がなく(挿入図)、このことはQCW励起の応用に対して非常と重要となる。(資料提供:プリンストンオプトロニクス社)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/06/1106feature03.pdf