コーティングの欠陥を修復するレーザ加工ピット

ジョン・ウォレス

意図的に形成した円錐平底ピットは、その損傷閾値がコーティング欠陥の閾値を大幅に上回る。このピットでコーティングの欠陥を修復すると、不完全なコーティングをもつ大型光学系の高いピークパワー環境での使用が可能になる。

高エネルギーレーザと一緒に使用する光学系は、その光学コーティングに小さな欠陥があると、破壊的な損傷が発生する。レーザによる損傷は欠陥のある場所に発生し、そこではより多くの光が吸収され、ランナウェイ効果を引き起こす。その結果、大型光学系に対する高ピークパワーの光学コーティングは、1カ所もしくはごく少数の欠陥でも光学系全体が使用できなくなるため、その加工は非常に難しく高価になる。
 コストを増やして完全な光学系を作製する代わりに、米国立点火施設(National Ignition Facility:NIF)の科学者チームは、多層誘電体反射コーティングを損傷する可能性のある欠陥に対処する方法を考案した(1)。この方法は、まず注意深く制御されたフルエンスのレーザ光を照射して欠陥を検出し、次に、それぞれの欠陥を改質して、動作状態のレーザ光のレベルであっても変化しないで存続する良性「緩和構造」を形成する。この改質はフェムト秒レーザ加工、ダイヤモンド機械加工や磁気流動仕上げを用いて行うことができる(2)。

レーザ強度の3Dモデル

米ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)、米カリフォルニア大学バークレイ校およびパノラミックテクノロジー社(Panoramic Technology)から集った研究者たちは、平坦底面と円錐壁をもつ円形ピットの形状をした緩和構造をモデリングし、実験的に試作した。このモデルは市販の有限差分時間領域ソフトウエアを使用し、マクスウェル方程式を解いて、レーザビームが構造に入射し反射するときのレーザ強度の3Dマップが計算された。
 このモデルの1064nmレーザ波長とハフニア/シリカ多層誘電体構造は、NIFにある慣性閉じ込め核融合研究システムの大型反射鏡の特性との整合性が得られる。ハフニアは1.971の高い屈折率をもつが、シリカは1.4497の低い屈折率をもつ。ガラス反射鏡上のコーティングはハフニアとシリカの24の交互4分の1波長層から成り、全体の膜厚は4μmになる。
 計算は多数の異なるビーム入射角とsおよびp偏光に対して行われた。0~75°の範囲の円錐角が15°ごとに設定された。斜め入射角をもつビームのシミュレーションでは最大反射率が維持されるように波長のシフトが行われ、また屈折率は実際の値の代わりに、有効屈折率が使用された。
 結果は電場強度に関係して表示された。つまり、ある点の値はその点の実際の強度を入射ビームの強度で割算した無次元数であった。このシミュレーションは詳細に行われ、二つの 4分の1波長材料のそれぞれに分けた3D強度データがマッピングされた。

強度の低減

シミュレーションの結果、入射角、円錐角、偏光および強度は非常に複雑な関係をもつことが分かった。例えば、ハフニア層、15°の円錐角、左から45°の入射角を条件にした場合は、s偏光に対する最大強度がピットの右側に生じた(図1)。しかし、p偏光に対する最大強度は同じ条件であってもピットの左側に生じた。

図1

図1 24層ハフニア/シリカ反射誘電体コーティング膜中の円錐緩和構造を取り囲むハフニア層に対して、左からs偏光を45°の角度で照射したときの電場強度(増加に関係する)を示している。図は上と横からの断面を示し、コーティング厚みは見やすいように拡大している。円錐角は15°に設定された。赤色と橙色はより大きい増加に対応する。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/06/1106feature02.pdf