超短パルスレーザシステムとの相乗効果で成長する自由電子レーザ

アラン・フライ、ミルトチョ・ダナイロフ、マルコ・アリゴーニ

超短パルスレーザシステムを組合せた自由電子レーザはFEL動作の増強とポンププローブ法の多様化により広範囲のX線波長での時間分解実験が可能になる。

新世代の自由電子レーザ(FEL)は0.15nm以下の短波長においてコヒーレントX線の高輝度フェムト秒パルスを発生し、20GWまでのピーク出力が得られる。ピコ秒(ps)とフェムト秒(fs)のTi:サファイア増幅器を使用すると、初段での電子バンチの生成、FELビーム特性の最適化、X線ビームラインとの結合による時間分解実験が可能になる。
 FELの相対論的電子は交番極性の周期構造をもつ一組の磁石から成るアンジュレータを通過する。磁場は電子を正弦波の経路で加速し、電磁放射を引き起こす。放出された電磁場は電子のエネルギーと密度を変調し、放射波長の間隔をもつ「マイクロバンチ」を形成する。放射波長のマイクロバンチビームはコヒーレントになる。
 シンクロトロンやX線管などの伝統的な X線源はインコヒーレント X線パルスを発生するが、FELはそれよりもはるかに高い輝度とより短いパルス持続時間をもつ誘導コヒーレント出力ビームを放射する。FELの放射波長は基本的にアンジュレータ周期、磁場強度および電子エネルギーに依存する。したがって、FELは電子の運動エネルギーとアンジュレータの構成を変えることで、非常に広範囲の同調が可能になる。FELは従来とまったく異なる波長での高コヒーレント放射を生成するため、物理学、分子動力学、医学、材料科学などの広い分野の研究に応用できる。

FELフォトインジェクタ

米スタンフォード線形加速器センター(SLAC)のリニアックコヒーレント光源(LCLS)は、エネルギーがキロエレクトロンボルト(keV)の硬X線を発生する最初のFELとして建設された。LCLSは長さ3kmの線形加速器の3分の1を使用し、500eV~9keV以上の範囲において、1ミリジュール(mJ)以上のエネルギーをもつパルスを数百~4fs以下の持続時間と30~120Hzまでの繰返し速度で発生する。
 FELはアンジュレータの利得飽和を達成するために、非常に明るい電子ビームが必要になる。高輝度電子ビームは超短パルスレーザ増幅器を使用し、フォトインジェクタと呼ばれるRF加速構造の光電陰極を照射して、電子バーストを生成する(図1)。超短パルスレーザを制御すると、電子は光電陰極から離れる時間が精密に最適化され、このパルスは電子加速器の残りの部分との強い同期が得られる。また、電子バンチの空間および時間プロファイルの最適化も可能になる。
 LCLSは銅の光電陰極をもつフォトインジェクタを使用する。Ti:サファイア系の超高速増幅器を用いて励起された銅は、一般に信頼性と量子効率との間に良好なトレードオフが得られる。この増幅器は760nmにおいて数mJの出力と1~5psの持続時間をもつパルスを生成する。その出力は253nmへの周波数 3倍化と数 mにわたるリレーイメージ伝送が行われ、フォトインジェクタの光電陰極に到達する。このフォトインジェクタレーザは数ヶ月にわたり連続動作するため、空間モード、時間プロファイルおよびパルスエネルギーの非常に高い安定性が要求される。赤外(IR)ビームの部分も「レーザヒータ」として使用され、最初の電子と相互作用して、電子ビームの不安定性の発現を減少させる。
 FELフォトインジェクタは350psのサイクルタイムに対応して2856MHzのRF周波数をもつため、このレーザシステムはピコ秒の状態で動作する。レーザパルスの持続時間は最適化され、RF効果によるエネルギー広がりとバンチ内の電子間の有害な空間電荷が最小になる。とくに、より長いパルス(数十ps)はパルス内のRF加速勾配の差によってエネルギー広がりが大きくなる。より短いパルス(数百fs)は非常に高い電子密度を生成し、横方向と縦方向の運動量の分布が大きくなる。

図1

図1  次世代FELは超短パルスレーザで駆動するフォトインジェクタが中核部品になる。(資料提供:SLAC)

FELのシーディング

新しいフェルミ@エレットラ(Fermi@Elettra:イタリアのトリエステにあるエレットラ・シンクロトロンのFELプロジェクト)もTi:サファイアシステムの周波数3倍化出力で駆動した銅の光電陰極を使用する(図2)。このFELは再生増幅器段を組合せて特注した米コヒレント社(Coherent)の増幅器とそれに続く二つの二重光路増幅器を使用する。

図2

図2  新しいフェルミ@エレットラはトリエステのエレットラ・シンクロトロンのFELプロジェクトになる。(資料提供:シンクロトロン・トリエステ)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/06/1106feature01.pdf