可視からLWIRをイメージングする超広帯域光学系

クリストファー・アレクセイ

光学分散の「変動」を考慮に入れれば、光学材料の組合せによって、可視および赤外、もしくはこの範囲の分離した複数の小領域を同時に結像する単一屈折レンズ系を作製することができる。

マルチスペクトルイメージングのアプリケーション数が増大するのに伴い、価値の高い情報を捕捉、供給、伝達するためのより高度な光学系に対する需要も増大する。しかし、伝統的な光学アプローチは、異なる複数領域は勿論、広い電磁スペクトル領域を一般的な光学系を用いて同時にイメージングする手段にはならない。
 マルチスペクトルイメージングシステムの設計は、長い間、完全にではないにしても主に反射面を利用するアプローチが大半であった。反射鏡は本来アクロマティックだが、多数の例が示すように、反射設計は挑戦的なイメージングシステムでの使用に適さないという欠点がある。反射幾何学は狭〜中程度の角度視野が必要なシステムに最も適しているが、それでも多くの場合、そのような設計はオブスキュレーションを含む。
 オブスキュレーションなしの設計はマルチミラー形式において定式化することができる。その好例が3ミラーアナスチグマートであり、これは提案されて以来、広範囲に利用されてきた。その主たる欠点は、その機能を達成するためにかなりの空間と複雑なアーキテクチャが必要になることだ。設計者は、いったん反射型ではなく屈折型を選択すると、屈折性媒質自身によって引き起こされる色誤差の難題と戦わなければならない。

高次色収差

色分散は光学材料の屈折率の波長による変化である。ほとんどすべての場合に、媒質の屈折率は波長が長くなるにつれて減少する。補正なしでは、屈折率設計において、十分なイメージングが可能なスペクトル範囲が分散によって制限される。
 長年使用されてきた光学設計の分散特性を最小化する方法は、分散値(V数で定量化)と倍率が異なる2種類の材料を合体させて関心スペクトル内の少なくとも二つの波長で補正された良好な画像を生成するマッチドペアを定式化することである。設計に高次収差が導入されないようにV数が大きく異なる2種類の材料が最適な選択になる。
 しかし、このアプローチは非常に広いスペクトル範囲を処理する光学系の場合には旨く機能しない。材料の分散関数の非線形性が、広帯域の光学系における異常イメージングの主な原因の一つである。それは、多くの場合、コントロールが極めて困難な高次色収差または非線形残留色の形で顕在化する。この馴染みの薄い収差群は、制限されたスペクトル範囲の設計においてもほとんどの場合、厄介ものと見なされるが、設計スペクトル範囲が広くなるとそれが一層厳しくなる。
 水分を含まない硫化亜鉛、クリアトランの材料特性を考察しよう(図1)。三つの主要な関心スペクトル領域は約0.7〜1.9μmの短波長赤外(SWIR)、3.0〜5.0μmの中波長赤外(MWIR)、8.0〜12μmの長波長赤外(LWIR)である。これらの各サブ領域内で、伝統的なV数法で計算された変化率は、三つの明瞭に異なる勾配近似で示されるように、その挙動は1本の線からかなり逸脱することを示している。3領域のすべてに適切な材料の組合せを探すとすれば、設計者は、大きく異なるV数と同一の部分分散を同時にもつ二つの要素を整合させることが不可欠になる。二つの要素の共通分散応答からのいかなる逸脱も残留色、つまり画像コントラストと解像度の劣化につながる。三つの領域すべての橋渡しをするソリューションを見出そうというのであれば、設計者は適切な「クラウン‐フリント」型の関係を再度維持しながら、各勾配がほとんど同じになるように整合させなければならない。
 これは容易な業ではない。これらの領域を横切って両方の領域を透過し、実用的な方法で製造できる材料の数に制限があるからだ。そのため、広いスペクトル領域にわたって非線形性、より具体的には分散の変動を互いに補償しあうことができる材料調製を識別する方法を見出すための斬新なアプローチが必要になる。
 しかし、センサソリューションが体積と重量の最小化を目標に展開される場合のように、異なるバンドに対して異なる光学系に落ち着くことは一般に良いオプションとはいえない。無人の車両システムがその明らかな例である。

図1

図1  硫化亜鉛(ZnS)の屈折率におけるスペクトル変動はSWIR、MWIR、LWIRの各領域で非常に異なるV数(またはアッベ数)を示した。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/05/LFWJ1105-2f2.pdf