新しいCMOSセンサに押されるCCD

コリン・コーツ、クリス・カンピーロ

増強されたCCDはニッチな用途に対して重要な性能を維持しているが、最近の進歩した新しいCMOSイメージャは科学的用途にも対応できる。

科学用途のカメラの場合、電子増倍(EM)CCD、インターラインCCDおよびCMOSセンサの技術の選択には、コストは勿論、速度、視野、雑音、ダイナミックレンジ、画素分解能などの間でもトレードオフがつきものだった。しかしながら、科学用CMOS (sCMOS)カメラの最近の進歩は、先例のない速度、極端に低い雑音、高いダイナミックレンジおよび広い視野を同時に実現し、基本的な性能のトレードオフを解消しながら、「実用カメラ」の価格帯での値ごろ感を維持している。その結果、sCMOSカメラは既存のインターラインCCDの多くとEMCCDセンサのいくつかの応用を獲得しようとしている。とは言え、インターラインCCDセンサ
とEMCCDセンサには、長いスターリング時間や単一分子検出などに独自の特性があり、特定のニッチな用途では依然として好まれている。

トレードオフの歴史

科学品質のデジタルカメラの性能限界を定める最も重要なパラメータには、e−/画素/秒の単位で測定される暗電流、e−/画素の単位で測定される読取り雑音、フレーム/秒またはM画素/秒で定義される速度、画素サイズと全画素数の関数としての視野、所定波長の信号として検出される光子の確率を百分率で表す量子効率(QE)、最小検出可能信号に対する最大測定信号の比を示すダイナミックレンジなどがある。現在までのところ、これら全てのパラメータを同時に最適化できるセンサ技術は存在しないため、カメラは特定の用途に対して適度な妥協で済むセンサに基づいて選択されなければならない。このトレードオフは、生化学の事象を高速度で画像化したいが、同時に低雑音、高分解能、広視野(つまり大量の画素)なども必要になる生物学者にとっては大きな問題であった。

低雑音CCD

CCDは非常に低い雑音と高いQEを確保できる究極のイメージセンサであると考えられてきた。暗電流はカメラを−30℃以下にまで冷却すると、1e−/画素/秒よりもはるかに低い値が容易に得られ、高性能CCDカメラの場合は−100℃に冷却することで同様の値が得られる。一般に、画素当たり数電子の読取り雑音は、低光量/高速度のいくつかの用途を制約する問題になるが、このことはEMCCDの開発によってうまく解決されている。この場合、各画素からの信号は読取り回路に到達する前に、チップ上のいくつかの増幅段によって増強され、読取り雑音は信号増幅の倍率と同等の比率で減少する。
 CCDの重要な制約条件は速度であった。画素のすべての列は読取り抵抗へ連続的に移動し、共通の読取りノードへ転送される必要がある。センサの画素構成がわずか1k×1kであっても、このようにして処理する画素数は100万にもなる。より高速の読取り回路の利用も可能だが、この場合は雑音が増加する。画素のグループ分けやすべてのチップの一部だけを使用する方法も高速化に役立つが、分解能と視野が犠牲になる。
 インターラインアーキテクチャはCCDのフレーム速度をある程度改善する。この場合、それぞれの列は入射光を遮蔽する電荷蓄積領域を含むため、露光される画素は次のフレームを取得しながら読取りを実行できる。同様に、フレーム転送型CCD(このアーキテクチャはEMCCDでも使われる)は100%のデューティサイクルを達成できるが、この場合は蓄積領域が隠蔽され、すべてのフレームが読取り回路へ転送される。しかしながら、これらの方法はいずれも少数の共通読取りポート(通常は1ポート)を使用するため、フレーム速度は厳しく制約される。

CMOSの限界

異なるタイプのセンサとしてはCMOSチップがあるが、これは集積電子回路に使用されているものと同じ相補性金属酸化物半導体技術に基づいている。CMOSイメージャはコストが低く性能も比較的低いと評価されており、携帯電話カメラなどの民生用デバイスに広く使われている。これらの半導体デバイスの各画素は入射した光子を電子に変換する感光領域をもつため、CMOSイメージセンサはCCDと同様であると見なすことができる。しかしながら、各画素の電荷を共通の出力構造へ直列転送するCCDとは異なり、CMOSデバイスの各画素は電荷を電圧に変換し信号を一時的に蓄積する独自の回路をもつ。したがって、CMOSアレイは信号の並列読取りが大きな特徴になっている。
 並列読取りは速度の面で有利だが、CMOS技術は、高い読取り雑音、高い暗電流、低い画素間の均一性、ダイナミックレンジの制約、低いQEなど、それ以外の性能では劣るため、科学用途のデジタル撮像では優位に立てなかった。また、CMOSチップはCCDチップに比べると、欠陥数、つまり暗電流雑音の高い「熱」画素が増加しやすかった。いくつかのアレイメーカーはCCDバックプレーン上にCMOSセンサをバンプ接合するハイブリッド技術を開発し、50フルフレーム/秒の高い速度と数電子のノイズフロアをもつCMOSカメラを実現した。しかし、多くの応用に対して、この雑音はあまりにも高く、その技術は高価であった。

科学用のCMOS

最近は半導体およびMEMS技術の進歩とフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)の高速信号処理機能の進歩によって、CMOSデバイスは適切なハードウエアとファームウエアを使用すると、性能限界の克服が可能になり、その用途は科学分野への拡大が可能になった。英アンドールテクノロジー社(Andor Technology)のNeosCMOSカメラはCMOSの高速の利点(最大100Hzフルフレーム)を非常に低い雑音、高いQE、広いダイナミックレンジ、高い空間分解能および広い視野で確保している(表1)。

表1

表1 2種類の一般的な科学用CCDと比較しsCMOSの性能

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/05/LFWJ1105f1.pdf