テラヘルツ検出器の応答時間を改善するエアブリッジ

サラ・シベラ、ロベルト・カシーニ、アレッサンドラ・ディ・ガスパーレ、ミシェル・オルトラーニ

モノリシックアレイ構造と互換性をもつエアブリッジ画素の形成、活性領域の小型化、および熱的/電気的絶縁の改善によって、ミリ秒の応答時間をもつテラヘルツ検出器が実現した。

テラヘルツ撮像の技術は、とくに手荷物検査、非破壊試験、生体臨床医学などへの応用が期待されている。レーダやボディスキャナに使われるミリ波による場合と同様に、0.6〜6THzの周波数の放射を利用すると、衣服、封筒、包装などの不透明誘電体を通した物体の撮像が可能になる。また、ミリ波に比べると50〜500μmの短波長のため、遠方場ではmm以下の分解能が得られる。しかし、テラヘルツ放射とミリ波との非常に大きな違いは、気体、生体分子および固体の分光特性にあり、とくに液体水のテラヘルツ吸光度の周波数依存性には異なる挙動が現われる。
 このような分光特性からは赤外線やミリ波では不可能な異種の物質間の強い画像コントラストが得られる。したがって、テラヘルツ放射の撮像能力とスペクトル感度を組合せると、「擬似カラーテラヘルツ画像」(スペクトル画像)が得られ、物体の検出と物質の同定の両方が可能になる。しかしながら、テラヘルツ分光撮像を商業的に利用するには、システムの小型化や複雑性/コストなどの改善が必要になる。
 広帯域テラヘルツ分光法を目的にして、スペクトル画像を数秒で取得できるいくつかのレーザ技術が開発されている。これらの技術は二つの狭帯域可変波長レーザからの差周波数信号発生(光混合)によるコヒーレント検出、あるいは超高速光スイッチに影響を及ぼすモード同期レーザから発生したサブピコ秒テラヘルツパルスの時間領域分光法により実現される非常に高い検出器感度を用いて実現されている。しかし、レーザビームは光スイッチや光混合器のアレイ上への多重化が必要になる。ところが、これらのシステムに対して多重画素の撮像機能を付与することは難しい。その代わりに、単一送信機からのテラヘルツビームの電気的または機械的操作が行われる。
 テラヘルツ撮像へのもう一つのアプローチは、1mWレベルの出力パワーをもつ狭帯域テラヘルツ光源を用いてターゲットを投光照明し、その透過/反射放射を多重画素焦点面アレイ(FPA)上に集束する。現在は2〜5THz領域の量子カスケードレーザ(QCL)、0.2〜1.2THz領域の電子増幅器‐増倍器チェーン(AMC)などの小型の点状光源が利用されている(1)、(2)。多数の光源からのターゲット照明や放射スペクトルの精密同調とFPAを組合せる狭帯域撮像は、全テラヘルツスペクトルの代わりに、マルチスペクトルを取得する。このマルチスペクトル情報は検出器の復調を用いてFPAから回復される。
 熱センサ(マイクロボロメータまたは焦電検出器)で構成される市販の赤外FPAとQCLを組合せた単一テラヘルツ周波数によるビデオ速度撮像も実証されている。これらの検出器は比較的大面積(一般に50×50μm)のエネルギー吸収体を用いるため、各画素の時定数は10ms以上が必要になる。各画素の応答は電子的に高速サンプリングされるため、この時定数はビデオ速度撮像であっても問題とはならない。しか
しながら、このような遅い熱応答の時定数はマルチスペクトル復調などの高度な読取り方式の利用を妨げる。そこで、イタリア国家研究会議フォトニクス・ナノテクノロジー研究所(CNR‐IFN)に所属するわれわれの研究グループは、将来のFPAへのモノリシック集積を目標にして、リソグラフィ加工による応答時間ミリ秒のテラヘルツ検出器を開発している。

エアブリッジテラヘルツ検出器

増幅器の帯域幅の問題を無視すると、検出器の固有応答時間はコンダクタンス(高い値が必要)とキャパシタンス(低い値が必要)から決まり、材料と作製技術の関数になる。活性領域の小型化あるいは活性領域と内部構造(電極や基板など)の熱的絶縁を行えば、検出器は短い応答時間を得ることができる。空気(または真空)は電気的および熱的絶縁に最適な媒質のため、検出器の活性領域をマイクロメートルサイズのエアブリッジ上に配置することは魅力的な選択肢になる。このアプローチは熱伝導率と熱容量をパラメータの基本にする熱検出器と、固有応答時間が電磁波周期よりも短い(1THzに対して1ps)ことが必要になるテラヘルツ整流器の両方に適用できる。このような検出器にはショットキーバリアダイオード(SBD)が含まれる(図1)。
 CNR‐IFNが試作したマイクロメートルサイズのエアブリッジをもつ2種類の検出器は市販デバイスより短い応答時間を得ることができた。いずれの場合も、50〜500μmの波長をもつテラヘルツ放射とマイクロメートサイズの活性領域との結合は、チップ上に平面テラヘルツアンテナを作製し、シリコン(Si)基板レンズを用いて入射ビームをアンテナに集束して実現した。エアブリッジと活性領域はアンテナフィーダの間に配置した。このデバイスは2次元(2D)検出器アレイ配置であり、ウエハ上には将来に追加する予定の相互接続と前処理電子回路に必要となる十分な空間が残されている。現在はアレイから単一画素をダイスし、基板レンズと一緒に実装して、外部の電子回路による試験が行われている。

図1

図1 このCNR‐IFNが作製したエアブリッジSBDの走査型電子顕微鏡写真は、寄生容量を減らすために、陽極パッドとショットキー接合との金属接続が懸垂状態にあることを示している。この懸垂された構造は、まず、金属ブリッジの下のGaAをウエットエッチングし、次に、二つのメサ構造をリソグラフィ加工して形成された。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/04/bef4fa5e1a20ab0b30bdd48b69d020001.pdf