先端科学の応用を可能にする高出力光ファイバ増幅器

ジム・ディング、ブライス・サムソン、パイマン・アフマディ

光出力が数百Wにまで改善された高フィネスの光ファイバ増幅器は、原子のトラッピングと冷却や重力波検出などの先端科学のための優れた研究手段になっている。

産業用レーザ加工装置への高出力ファイバレーザの採用は数年にわたり継続され、現在の利用は医療や科学分野を含めたその他の市場にも拡大している。科学分野への浸透の鍵になった要因の一つは、高フィネス光ファイバ増幅器の改善にあり、優れたビーム品質と安定な直線偏光出力に加えて、単一周波数スペクトル線幅(5kHz以下)が得られることであった。
 このような仕様を満たす光ファイバ増幅器システムは、最近の数年間に出力特性が着実に進歩し、数年前の数Wから現在の数百Wへと増強された。このような出力の増強は増幅器の全体設計の改善に加えて、誘導ブリルアン散乱(SBS)の抑圧やファイバ内の応力緩和などの技術を用いて実現されている。最新の高フィネス高出力光ファイバ増幅器は、商用の固体単一周波数光源を超えるパワーレベルが得られ、より高いパワーレベルと安定で最適化された性能が特徴となる新しい科学分野への応用を開拓している。

光ファイバのSBSの問題

光ファイバのSBSは光通信との関連で長期にわたり研究されてきた。光通信用の光ファイバは長い距離(数十km)の効果がSBS閾値を減少させ、伝送可能な信号パワーを制約している。今日の希土類ドープ高出力ファイバレーザや光増幅器はファイバの長さが非常に短く、一般には数mから数十mの長さしかない。その結果、SBS閾値ははるかに高く、数Wから数百Wの範囲になる。伝送信号に対するSBS閾値の効果は後方反射ストークス波の急速な立上りとして現れ、出力パワーがSBS閾値を超えると、指数関数的に増大する。
 いわゆるラージモードエリア(LMA)ファイバを使用してファイバコアを大きくし、有効モード領域を拡大することは、SBS閾値を増加させる簡単な手段になる(図1)。標準の通信用ファイバ(一般に5〜10μmのコア径)よりも大きな20μmまたは25μmのコア径をもつ最新のLMAファイバを用いることにより、SBS閾値は、市販の光ファイバ増幅器に適切なファイバ長(5〜10m)に対して50W以上に引き上げることができる。コイル巻きやモード整合などの新しい光ファイバ技術を用いることで、このようなコア径25μm以下のLMAファイバからは回折限界に近いビーム品質が得られている(1)〜(3)。さらに、偏波面保持LMAファイバを設計パラメータの一つとして利用することもできる。このような光ファイバを使用すると、狭いスペクトル線幅の偏光光源ビームの増幅が可能になり、最先端科学への数多くの応用において必要な非常に高いパワーレベルを得ることができる。

図1

図1 光ファイバ増幅器のSBS閾値は20ないし25μmのコア径をもつLMAファイバを使用すると増加し、単一周波数システムの最大出力が50Wを超える。温度勾配を付与すると、150W以上の閾値への増加も可能になる。

原子のトラッピングと冷却

強く集束された共鳴外レーザビームを利用して生成される光双極子トラップは、中性原子のレーザ冷却とトラッピングを目的にして提案された(4)。こうしたトラップによる初期の研究は、原子の加熱による短いトラップ寿命に悩まされてきた。加熱の主な原因は、レーザの強度雑音と指向性の不安定性にあると推定された。この制約要因は非常に安定した高出カファイバレーザの登場によって解決され、現在は量子縮退ガスが日常的に生成され、光トラップによる研究が行われている。新世代の光ファイバ増幅器を用いた光双極子トラップは必須の研究手段になり、超冷却原子および分子物理学の研究の最前線を開拓している。
 光トラップを利用する研究には、基本的対称性の試験、原子周波数標準、単ー原子のトラッピング、量子縮退ガスの生成、大規模量子情報処理システムの開発などが含まれる。二つの対向伝搬光トラップを用いて光学格子を生成する技術も最近に開発された高出力狭線幅ファイバレーザの恩恵を受けている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/04/633e298517a433afd5b754d1bd28a3051.pdf