精密光時計などの応用を築く光周波数コム

ルーディガー・パショッタ

高安定光周波数コムは計測工学(その代表は光時計)ばかりでなく、天体観測の超精密分光法やその他の新分野の応用においても役割を果している。

周波数コムは1999年に話題の研究トピックとなり、2005年にジョン・L・ホール(John L Hall)とテオドール・W・ヘンシュ(Theodor W. Hänsch)がノーベル賞を授与されると、この分野の研究はさらに活発になった。それ以来、周波数コムはさまざまな研究分野、技術分野に用途を見出し、光時計はその代表的な応用になっている。
 何十年も前から知られていることだが、ピコ秒やフェムト秒の光パルスを発生するモード同期レーザの出力の光スペクトルは離散したスペクトル線から構成される。このようなスペクトル線の構造を周波数コムと呼ぶ。ちなみに、連続波(CW)レーザも離散スペクトル線を発生するが、モード同期レーザの場合は、波長分散や光学非線形性の影響があっても、離散スペクトル線の周波数は相互に強く同期される。
 雑音のまったくない理想的な状況では、すべてのスペクトル線の周波数は簡単な式、すなわち、νj=νceo+jfrepで表される。ここで、j は整数の係数νceoはいわゆる搬送波エンベロープオフセット周波数、frepはパルス繰返し率を示している。実際には、何らかの雑音がスペクトル線の有限周波数幅に影響を及ぼし、νceoとfrepのパラメータにはドリフトが生じる。しかし、このような雑音の影響は、動作パラメータ(パルスエネルギーやレーザ利得など)の適切な選択、非常に安定したレーザ装置の構成、温度や励起パワーなどの外部影響からの装置の注意深い保護の他、多くの場合(すべてではない)は一般的な制御法を用いてνceoやfrepを外部参照(連続波光周波数標準やマイクロ波発振器など)に対して安定化するなどの測定法を組合せることによって、比較的低い状態に抑えることができる。
 当初、周波数コムの発生ではチタン:サファイア(Ti:サファイア)レーザが支配的な役割を果した。しかし、近年は各種の希土類元素ドープレーザシステム(半導体レーザにより直接励起できる)などの実用性の高いシステムが開発され、一部ではファイバレーザシステムも使われている。今でも一般にTi:サファイアレーザシステムは最高の性能を確保できるが、新しく登場した代替システムを用いる周波数コムは、よりコストに厳しい場合を含めて、広範囲の用途に応用できる。

光学定規としての周波数コム

精密周波数コム光源を高精密分光法の光学定規に応用すると、概念は簡単だが大きな効果を得ることができる。例えば、天体観測では、一般に高解像分光器を使用して、捕集した光スペクトル成分を解析する。太陽系外惑星の探索のように極端に高いスペクトル精度が要求される場合は、分光器の較正が必要になり、とくに非常に広いスペクトル範囲を解析する場合は必須になる。このような較正では超精密連続波光周波数標準の較正用光源を使用したとしても、精巧な較正を難しくする大きなスペクトルギャップが現われる。
 この問題は周波数コムを使うことで解決できる。この場合の較正は安定化周波数コム光源からの光を分光器のなかに入れるだけでよい。そうすると、分光器の出力は十分に定義された膨大な数として表示され、その周波数は極端な高精度で明らかになる。その結果、すべての天文学的信号を同等の精度で決定することが容易になる(図1)。
 このような応用の場合、周波数コムは一般に、非常に広いスペクトル範囲への対応が必要になる。また、繰返し率を十分に高く(10GHzまたはそれ以上に)し、分光器によるスペクトル線形の十分な分解を可能にしなければならない。このような周波数コム光源の開発では、対象とするスペクトル領域において、広いスペクトル検出範囲と高いパルス繰返し率の組合せを実現することが課題になる。例えば、ファイバの非線形性を用いるスペクトルの拡大は、特に高いバルス繰返し率によって、通常パルスエネルギーがかなり低くなるこの領域では容易ではないことに注意して欲しい。非常に小型の共振器をもつTi:サファイアレーザは、可視領域に深く侵入できないが、非常に広いスベクトル範囲に対応できる解決策であり、妥当なバルスエネルギーを確保できる。低いパルス繰返し率を使用し、スベクトルフィルタリングを付加すると、所望の周波数間隔が得られる場合もある。

図1

図1 分光器の出力の場合は、精密に定められたコム線から生成される定規を使用して、広いスペクトル範囲の周波数が厳密に測定される。

精密マイクロ波クロ必7信号の発生

セシウム原子時計は長年にわたり超精密周波数標準として使用されてきた。しかしながら、長期にわたる使用には光周波数標準が好ましい。レーザ冷却イオンまたは原子を用いる光周波数標準は、周波数の長期安定性がすべてマイクロ波による標準の長期安定性を上回ることがその第1の理由である。

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出典元
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