完全デジタル化に近づくシリコン光電子増倍管技術

カールステン・デゲンハート、ハンス・ドリーセン

オールデジタルのシリコン光電子増倍管はチップ上にADCなどの電子回路を備えており、従来のCMOSプロセスを使って作製することができる。

最近、シリコン光電子増倍管(SiPM)がいわゆる光電子増倍管(PMT)の代替として大きな注目を集めている。SiPMは、PMTと同様に、単一光子の検出も可能なほどの極端に低光量の光を測定することができる。しかし、SiPMは、PMTと比較して、低い動作電圧、耐久性、小さな物理的サイズ、軽量、高い磁場耐性といった固体としての長所を発揮する。
 とは言え、現在のSiPMには限界がある。SiPMは非常に高い内部利得が特徴であるが、アナログ出力信号が比較的弱いため、光子計数と最初の光子到達時間を回復させるために高消費電力の読出し特定用途向け集積回路(ASIC)を使って処理しなければならない。このASICのコスト、サイズ、消費電力によって、従来のPMTからSiPMへの移行がさらに困難になっている。オランダのフィリップス社(Philips)で開発された新しいオールデジタルSiPM技術は、こうした外部ASICを必要とせず、固体素子を使って実行可能な用途をさらに拡大する。

異なるアプローチ

光子計数は定義としてはデジタルな作業だが、従来型SiPMは複数の光子検出で発生した電気パルスを単一のアナログ出力信号に組合せているにすぎない。前述のように、このような信号は、光子計数を回復するために高価で高消費電力の電子回路を使って処理しなければならない。
 われわれは、低電力のCMOS電子回路をSiPMチップに集積することによって、オンチップ計数回路で検出された各光子を直接カウントすることが可能な超高速デジタルパルスに直接変換するデジタルSiPMを開発した。従来型SiPMと異なり、デジタルSiPMはオールデジタル(デジタルイン/デジタルアウト)デバイスである。結果的に、これは、一つ目の光子検出の極めて明確なタイミングによって、より高速でより正確な光子計数を実現する。そして、その両方が医用画像スキャナや高エネルギー核物質粒子検出器などの応用における重要な要因である。さらに、デジタルSiPMは標準的な大量生産CMOSプロセス技術を使って製造可能である。

各マイクロセルの独自ADC

従来型SiPMはアバランシェフォトダイオード(APD)の2次元(2D)アレイから成り、そのそれぞれが独自のポリシリコンクエンチング抵抗と直列に接続されている。これらのダイオード/抵抗マイクロセルのすべてが並列に接続され、その全マイクロセルアレイにダイオードの正常絶縁破壊電圧(一般に30〜70Vの範囲)よりも高い逆方向バイアス電圧が印加される。このいわゆるガイガーモードで動作するダイオードは、単一の電子正孔対に対して非常に敏感であり、結果として個々のダイオードはアバランシェ絶縁破壊を起こす。これらの電子正孔対は光子(必要な信号)の吸収だけでなく、熱エネルギーまたは電子トンネル効果(不必要な背景雑音)によっても生成される。熱的に生成された、電子正孔対と電子トンネリングによって生成された不必要な背景雑音と欠陥による誤った計数が、集合的にSiPMの暗計数とされる。
 従来型SiPMの外部デジタル化ASICの必要性を排除するために、フィリップス社で開発したデジタルSiPMは、それぞれ独自の1ビットのオンチップアナログ‐デジタル変換回路(ADC)をもつAPDをCMOSインバータの形で配置した(図1)。

図1

図1 すべての電子回路がオフチップである従来型SiPM(a)に比べて、デジタルSiPM(b)は一つのSiPMが一つのADCを含むオンチップセル回路を持っている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/03/e9feb207ff052e30a5634475995bfc0c.pdf