光を集めるプラズモニックナノ構造

ステファン・A・メイヤ

プラズモニックナノ構造システムの進歩は、明モードと暗モードの操作や変換光学による光の集中を可能にしている。

金属ナノ粒子の光学場の研究は、粒子形状の簡単な変化による双極子共鳴のスペクトル同調を利用して発展している。ファノ共鳴から生じる暗モードと名付けられた光学モードを利用すると、鋭いスペクトル共鳴の発生と散乱の最小化を可能にするナノ構造が創成され、また、広帯域光の発生に適した新しいナノスケール光共振器を設計する理論的枠組としての変換光学に基づく新しい手段が得られる。

共鳴とその効果

可視光の波長よりも小さなサイズをもつ貴金属ナノ粒子は局在した表面プラズモンが励起されるため、その光散乱と光吸収には強い共鳴が生じる。その結果、金属ナノ粒子の伝導電子には集合共鳴振動が起こり、放射双極子として動作するようになる。その共振周波数は粒子の形状と誘電環境に強く依存し、粒子は100nmより十分に小さなサイズでも、可視から近赤外(IR)のスペクトル範囲において「色」の同調が可能になる。
 この効果の最も顕著な応用例は、われわれの身近で遠い昔から使われてきた金属ナノ粒子を添加剤にした色ガラスだ。最近の新しい応用は単一ナノ粒子レベルでの利用が増加し、生体分子の標識付け、ナノスケール光子光源からの光放出の増強、生体分子センシングなどが行われている(1)、(2)。これらの応用は、いずれもその双極子共振周波数で金属ナノ粒子の粒子表面付近における光の回折限界以下へのナノ集中が起こり、共鳴により吸収や散乱断面積が増加する事実に基づいている。
 ナノ加工を制御し、とくに電子ビームリソグラフィを利用すると、現在では最短10nmの距離に精密制御して配置された多重金属要素から成る金属ナノ構造を創成できる(図1a)。この簡単だが感動的な方法を用いると、ナノ光学系の共振周波数の同調ばかりでなく、隣接ユニット間の近接場結合による放射との相互作用の強度も確保できる。

明モードと暗モード

二つの双極子が相互作用する簡単な事例を考えてみよう。それらの双極子モーメントの平行または反平行の配列に対応して、それぞれの共鳴モードは遠方場放射との強い相互作用または弱い相互作用を示す。その結果、二量体システムの正常モードはスペクトルの広くて明るい(超放射)モードとスペクトルの狭くて暗い(サブ放射)モードから構成されることになる。このような明モードと暗モードの概念を用いると、プラズモニックナノ共振器における吸収と散乱の平衡の制御が可能になる。
 要するに、金属ナノ粒子はナノスケールの古典的調和振動子システムとして理解され、簡単な幾何学配置における集団共鳴の特徴の多くは、ばねの集合としての概念に基づいてモデリングできる。さらに複雑な配置をもつ局在したプラズモン間の相互作用は、プラズモンハイブリダイゼーションの概念の枠組みに基づいてすんなりと理解できる(3)。
 適切に設計されたシステムは美しい物理学となり、そこでは暗モードのスペクトルの共鳴がスペクトルの広い明モードに重なる。つまり、連続体と相互作用する局在状態の量子システムと同様のファノ共鳴が現われる。これらの共鳴が生じると、明モードの二つの励起経路(暗モードとの直接または間接的結合)間には線形性の破壊的干渉が起こり、散乱が減衰するため、スペクトルの鋭い波長窓の透過が増加する(図1のbとcを参照)。これらの効果はドルメン形やディスク/リング共振器のような単一粒子レベルから構成される多数のプラズモニックナノシステムにおいて実証された(4)、(5)。最も見事であったのは、3本の金属バーから成る積層配置の場合に、散乱がファノ共鳴によって完全に消失し、ナノ構造は光を吸収したが、散乱が起こらなかったことだ(6)。
 現在のファノ共鳴は、積層数の多いプラズモニックナノ構造や金属材料において実証され、高感度バイオセンサ、スローライトメタ材料導波路用の分散素子、ナノスケール光源などへの応用可能性が証明されている(7)。

図1

図1 金属ナノ素子は相対位置を約10nmの精度で配置できる(a)。三つの積層金属バーが光を吸収するが散乱しないナノ構造を形成している(b)。(資料提供:いずれもステファン・A・メイヤ)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/03/66fb85a24fc5917006a2df24c3b07e1f.pdf