実用的な緑色半導体レーザの探究

ジェフ・ヘクト

実験室の窒化物レーザは極めて重要な帯域である 520〜 530nmに到達した。現在の開発者たちは、実用的な緑色半導体レーザの製造に必要となる完全な生産技術の開発にしのぎを削っている。

半導体レーザのより短い波長の探究は、ヒ化ガリウム(GaAs)の発光を赤外(IR)から可視の赤色波長へと広げる努力から始まり、その結果、現在の広く使われているGaAs基板上のリン化ガリウムインジウム(GaInP)またはリン化アルミニウムガリウムインジウム(AlGaInP)の活性層から成る赤色半導体レーザが誕生した。赤色の次は青色への難しい研究となり、中村修二氏が1995年に、窒化インジウムガリウム
(GaInN)からの405nmの半導体レーザの作製に成功した。
 青色窒化物レーザは輝かしい成功を収めたが、半導体レーザのスペクトルの中央には緑色のギャップが残された。このことは、真の緑色半導体レーザを必要とする新しい応用、とくにフルカラーレーザディスプレイを開発する際の大きな問題として浮上した。ネオジム(Nd)固体レーザによる532nmへの周波数2倍化は緑色のギャップ問題を一時的に解決できるが、ディスプレイの開発者たちは小型で直接変調可能な緑色半導体レーザが必要であった。また、半導体レーザは発振スペクトルの帯域幅が広いため、可視ディスプレイの邪魔になるレーザスペックルの抑圧にも必要であった。現在の緑色半導体レーザは実験室でのレーザ発振に成功している。しかし、実用的な緑色レーザを実証するには技術的な開発競争が残されている。

青色から緑色へ

緑色半導体レーザはヒ化物やリン化物に比べると大きな直接遷移バンドギャップが必要になるが、赤色および青色半導体レーザとの適切なカラーバランスを実現するには、GaInNによる520〜530nmバンドの発光が必要になる(図1)。しかし、残念なことに、活性層のバンドギャップを520〜530nmバンドに対して十分に近づけるには、インジウム濃度を(ガリウム濃度に比べて)30%も高くして、Ga0.7In0.3Nの組成にしなければならない。
 ところが、活性層のインジウム濃度が15%を超えると、半導体結晶はレーザ動作を損なう欠陥の発生が問題になる。2008年の段階では、このことが青色(488nm)よりも長波長の半導体レーザの実現を困難にしていた。2009年の初めになると、開発者たちはこの障壁を克服し、500nmで発光するGaInN半導体レーザを実証した。GaN基板上にレーザ構造を成長させる2種類のアプローチが成功し、両者は現在も競争を続けている。
 通常の窒化ガリウムは、一般にGaInN半導体レーザの基板として役立つ六方晶系ウルツ鉱型の結晶構造になる。青色および紫色半導体レーザの多くは六方晶系構造のc 面上に成長する(図2)。この選択は便利だが、この結晶に固有の極性によるc 面に垂直な大きな内部電場が発生し、窒化化合物に成長する量子井戸中の電子と正孔の波動関数が分離する。その結果、この量子閉じ込めシュタルク効果と呼ばれる分離によって、電子と正孔の再結合速度が減少し、半導体レーザとLEDに発光効率が低くなる(1)。しかしながら、このような分離は再結合時の光子エネルギーの減少を引き起こすため、面倒なことの原因となるインジウム濃度を増加しなくても、青色からの長波長化が可能になる。独オスラム オプトセミコンダクターズ社(Osram Opto Semiconductors)は、このアプローチを用いて500nmに到達した(2)。
 図2に示すように、その他のGaN結晶面も極性が低く、無極性の場合もあり、これらの結晶面もレーザ構造の成長の代替面になる。m 面と呼ばれる六方晶系の側面は無極性だが、その作製は難しい。c面と結晶軸に対して45°カットの半極性と呼ばれる面は、極性がc面よりも低く、容易に作製できる。半極性または無極性の面上へのレーザ構造の成長は電子と正孔の波動関数がほぼ整合した状態に保持されるため、発光効率が増加する。一方、所望の波長に到達するには、インジウム濃度の増加が必要になる。ロームはこのアプローチを使用して、オスラム社よりわずかに早く500nmに到達した(3)。これらの二つのアプローチは、青色から525nm近傍への長波長化の競争の先頭を走っている。

図1

図1 III‐V半導体のなかで窒化物だけが緑色と青色の波長に対応できるバンドギャップを持っている。

図 2

図 2 極性をもつウルツ鉱GaN結晶のいくつかの一般的な成長面を面方位記号と一緒に示している。半極性の成長面は結晶の対角線に沿ったカットから得られる。

低極性基板

ロームのグループと米カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)教授の中村氏のグループは、いずれも青色半導体レーザを試作し、低極性基板の効果を試験している。低極性基板が青色レーザの効率と出力パワーを改善することを明らかにした後、中村氏、ジェームス・スペック氏(James Speck)、スティーブン・デンバース氏(Steven Den Baars)は、2008年の初めに半導体レーザの技術を開発する米カーイ社(Kaai)を設立した。彼らは2010年にカーイ社を関連ベンチャー企業の米ソラー社(Soraa)と合併させている。
 現在までに、彼らは最高0.5Wの単一モードが25%のウォールプラグ効率で発生する405nm紫色半導体レーザと、0.75Wの単一モードが23〜24%のウォールプラグ効率で発生する青色半導体レーザを作製した。両者の効率はc面基板に比べると数%高いが、彼らの実際の目標は緑色半導体レーザにある。ソラー社のポール・ルディ氏(Paul Rudy)は「長波長を実現するには強硬にインジウム濃度を増やさなければならない」と語っている。ルディ氏によると、低極性基板は電子と正孔がより近接するため、設計者がレーザ材料を選択する際の柔軟性が増す。しかし、ルディ氏はソラー社が使用している材料と、それが無極性か半極性かについては口を閉ざしている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/02/54150e8febcbbcf919d778a354a4c75a.pdf