自由空間通信の到達距離を拡大する高性能光学系

ゲイル・オーバートン

地上と人工衛星との間の自由空間光通信は大気の影響を受けるが、光源と検出器の着実な進歩が存続を可能にし、データ速度と到達距離が拡大している。

防衛用の自由空間光通信(FSO)は1960年代に最初の実証実験が行われ、それ以降の光源、光検出器および光部品の着実な進歩によって、FSOネットワークの伝送距離が拡大し、期待される用途も増加している。例えば、2008年
に1500kmにわたる単一光子の自由空間伝送を実証したイタリアのパドゥア大学(University of Padua)の科学者たちは、そのわずか2年後に、国際宇宙ステーションのための宇宙空間の量子鍵配送(QKD)端末装置を提案した(1)。

宇宙通信

火星レーザ通信実証プロジェクトは2005年に廃止されたが、宇宙FSO通信プロジェクトは存続している。2006年に、欧州宇宙機関(European Space Agency:ESA)の先端型データ中継技術宇宙衛星アルテミス(Advanced Relay and Technology Mission Satellite:ARTEMIS)は高度3万6000kmの静止位置から、そのSILEXレーザの光信号を6kmと10kmの高度で飛行する航空機に伝送することに成功した。これはパリとブリュッセルの距離において光をゴルフボールサイズの標的に照射する離れ業に相当する(2)。ESAの欧州宇宙研究所(ESRIN)の応用技師を務めるステファノ・バデッシ氏(Stefano Badessi)は、「FSO通信に使える可能性のある帯域幅はRFやマイクロ波通信に比べると二桁も広い」と語っている(図1)。
 米マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所などの研究機関は、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)を使用して、エラーフリー光子計数通信リンクを781Mbpsの高速データ速度(2006年の時点の最高速度)を実現した。MITリンカーン研究所の技術スタッフを務めるアンドリュー・J・カーマン氏(Andrew J. Kerman)は、「現在、われわれはNASAのために、月の公転軌道上にある衛星と地球基地の望遠鏡群との間の自由空間通信システムを構築している。この月面レーザ通信実証(LLCD)プログラムはNASAへの光子計数レーザ通信の可能性を実証する先駆け実験として役立つ。その地上受信機は4組の四重ナノワイヤアレイを使用し、月面送信機のわずか数百mWの出力による最高0.6Gbpsのデータ速度を受信する」と語っている(3)。
 検出方式の改良に加えて、FSO通信の成功には光源の波長と変調フォーマットも大事な要因になる(4)。米ディスカバリー・セミコンダクタ社(Discovery Semiconductor)の科学者グループは、外部のいくつかの研究グループと提携し、リターンツーゼロ差動位相偏移変調(DPSK)を使用して、数十万kmの距離にわたって10.7Gbps、1.55μmの信号を伝送する衛星FSO通信システムを構築した。ドイツ宇宙センター(German Aerospace Center: DLR) のへネス・ヘニガー氏(Hennes Henniger)は、「テサット・スペースコム(TesatSpacecom)がDLRと契約して構築したドイツの人工衛星TerraSAR-Xは、第2のペイロードとしてのコヒーレント高速通信端末装置を搭載する」と語っている。この端末装置はコヒーレントニ値位相偏移変調(BPSK) ホモダイン受信を用いて、宇宙空間の最高6000kmの距離にわたり5.6Gbps信号を700mW の送信パワーで伝送する。このことはLEO衛星NFIREによる衛星間リンクと地上基地への下り回線を使用して実証された。身近なところでは、DLR のスピンオフ企業の独ビアライト・コミュニケーションズ社(ViaLight Communications)が地上から無人航空機(UAV) 、航空機、高高度プラットホームなどへのFSO ネットワークに特化した事業を展開している。これらの小型「移動可能」FSO ネットワークは、1Gbps を100kmの到達距離にわたり伝送できる(図2) 。しかし、真空の宇宙とは異なり、地上に配置するFSO ネットワークには絶え間なく変化する大気条件による難しさがある。

図1

図1 この図は代表的な人工衛星間の自由空間通信の模様を表している。(資料提供:ESA)

図2

図2 (a) は地上移動基地とUAV との通信を可能にするFSO ネットワークを示している(資料提供:ビアライト・コミュニケーションズ社)。(b)は小型化が進むアジャイ)は目信用のレーザ端末装置を示している(資料提供:DLR) 。

地上リンク

米ライトポアント社(LightPointe)のCEOを務めるハインツ・ヴィレブランド氏 (Heinz Willebrand) は、「本来は軍用の秘密通信のために開発されたFSOネットワークは大幅に改良され、その「秘密」の強さを発揮している」と述べ(図3) 、「標準的なFSOビームの発散角は2~5 ミリラジアン(mrad)のレベルだが、これは1km 離れたビームスポットがわずか2~5mの直径に収まることを意味している。同じ距離で無線アンテナを使うと、その信号は100m以上の直径に広がる。また、光通信の帯域は驚くほど大量の“自由”スペクトルを利用できる。一般のRFとマイクロ波は免許の有無に関係なく40GHzまでのスペクトル帯域で動作するが、それぞれは20、30、50MHzのような非常に狭い帯域に限られる。それに対して、光通信は数100GHz を超える帯域を利用できるのだ!」と語っている。

図3

図3 FSO通信は顕著に発展している。(a)は1960 年代の簡単なポンイト・ツー・ポイント音声通信の大きな装置を、(b)は小型化、堅牢化、可動化が進歩した現在のFSO 装置を示している。(資料提供:ライトポアント社)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/02/b98fb58f6583dffcc47c19381329676a.pdf