ゼロパワーでグレイスケール動作するエレクトロフルイディックピクセル

簡単な構造、長い電池寿命、高輝度光下での見読性などの特徴をもつ受動(非自己照明)単色方式の電子リーダ(e-reader)は、電子デバイスの広大な市場のなかにニッチで適当な規模の用途を開拓している。しかし、多くの人は電気泳動ディスプレイに基づく電子リーダの現在の出来ばえに満足してはいない。つまり、電気泳動技術を用いた結果、白色というよりは灰色で表示され(改善の途上にはあるが)、リフレッシュ速度は非常に遅く、ビデオ画像の表示は不可能で、グレイスケール(濃淡画像)状態は得られず、リフレッシュするときの黒いページは明るくなる。
 現在はいくつかの新しい受動ディスプレイへのアプローチが研究されている。そのなかで、米シンシナティ大学とガンマダイナミクス社が共同開発しているエレクトロフルイディック(電気流体)ディスプレイは、非常に有望なアプローチになると考えられる。このアプローチでは一つのデバイスのなかに三つの優れた品質、つまり白紙のような白色状態、ビデオ速度向上の可能性、ゼロパワーでのグレイスケール動作が確保される。グレイスケールの淡色を表示できる他のエレクトロフルイディック・ディスプレイも存在しているが、その表示には電圧の連続印加が必要となり、電池の消耗を起こすため、エレクトロフルイディック・ディスプレイはゼロパワーでのグレイスケール動作が非常に重要となる。

ヒステリシスによる動作

このシンシナティ大学のディスプレイはエレクトロウェッティング(EW)効果に基づいており、電場を加えると、固体基板上の色素液滴の接触角が変化し、液滴は二つの貯蔵容器、つまり見る人に露出している容器と隠れている容器との間の移動が強制される(色素は二つ目の非混和性透明液体を置き換える)。このディスプレイのピクセル中の液滴は、他のEW液滴とは異なり、電源を切っても移動した部分可視状態のグレイスケールの位置に留まる(図1)。このことは接触角のヒステリシスに基づいて実現される。つまり、加えられた電圧の小さな力は閾値として作用し、液滴の接触角の変化だけを引き起こし、液滴を移動させることはない。
 試作されたアレイの0.45mmのサイズをもつ各ピクセルは、同時に形成された薄い多層構造から成り、その一部がフォトリソグラフィによりパタン化されている。これらのピクセルには自己集合技術を用いて赤い色素の液体と透明な液体が注入され、ピクセルの上部は透明電極とEW基板として作用する透明板が取付けられる。
 液体を安定化するヒステリシス特性は流体抵抗を起こすが、試作品では6Hzのリフレッシュ速度に達した。研究グループによると、ピクセルのサイズを0.15mmに縮小すると50Hzの高速性が実現されるはずである。

図1

図1 ゼロパワーグレイスケールのエレクトロフルイディック・ディスプレイのピクセルの三つの状態(最も暗い、中間の明るさ、最高の明るさ)を示している。これらのピクセルの反射率は最高値と最低値の間のどの値にも調整できる。ピクセルの状態は電力をオフにしても変化しない(資料提供:ジェイソン・ハイケンフェルト氏)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/01/82f0ac921bb0c64adce168f97084d43c.pdf