科学者と技術者:その活発な連携

ジョン・ウォレス

応用研究とエンジニアリングに対するR&Dは途切れることがない。2010年は、技術革新の流れがまさに激流となった1年であった。

2010年、あまり公表はされていないが、フォトニクス分野では数多くの興味深い成果が達成され、その技術革新の量と質は素晴らしいものであった。
 光は紫外‐可視‐赤外、赤‐緑‐青、近赤外‐中赤外‐遠赤外などの定義が示すように、容易に分類できるが、光デバイスの分類は容易ではない。2010年に達成されたフォトニクス分野の多数の技術革新も、イメージングや光源などの伝統的な方式にしたがって分類することはできる。しかし、本稿のレビューのように、多数の成果を少しずつ簡潔に記述しようとすると、異なる分類の仕方が必要になる。これは一つには、昨年得られた多くの成果が、いずれも一つではなく多数の光技術の組合せから生まれていることが理由に挙げられる。

波長スケールのフォトニクス

光の重要な特性の一つは波長が小さいことにある。その結果、鮮明なイメージングや超高速通信が可能になり、機器の小型化が実現される場合もある。現在の光デバイスは光の波長特性をより深く生かした研究がさらに進み、数波長から波長以下の物理的サイズをもつ光デバイスも開発されている。
 例えば、メタ材料を用いて可能になる魔法のような不可視クロークは、従来の2次元(2D)光領域だけの動作ではなく、3次元(3D)光波長を用いた動作にも成功している(図1)(1)。独カールスルーエ工科大学と英インペリアルカレッジ・ロンドンの科学者たちはレーザリソグラフィを使用して、高分子/空気のフォトニック結晶(PC)から成る3D「ウッドパイル」構造を作製した。この構造は特別に設定した充填率を利用することで金の反射体のバンプを隠蔽できる(このようなクロークは非常に珍しいように思われるかも知れないが、他の波長スケールの構造を組合せたクロークは実用的な手段になる)。このクロークは1.4〜2.7μmの波長の非常に広い帯域幅と60°までの角度の無偏向光に対して動作することが注目されている。
 スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHチューリッヒ)量子エレクトロニクス研究所の研究グループが作製したサブ波長微小共振器レーザは、半径10μmの二つの半円形キャパシタから成る共振器空洞がインダクタとして動作する10μmのリンクに接続され、従来の電気的励起による微小共振器レーザではまったく不可能であった小さな有効モード体積が得られている。この量子カスケードレーザ(QCL)の利得領域は8μm、発振波長は207μmになる。研究グループによると、このような未来のレーザはモード体積をさらに縮小することが可能であり、その場合のレーザ発振は近赤外の波長領域になる。
 暖かい白色光を放射する白色LEDは大きな需要を期待できるが、その発光効率は冷白色光を放射する白色LEDよりも低くなる。トルコのビルケント大学とシンガポールのナンヤン工科大学の照明研究グループは、ナノ結晶の量子ドット(QD)蛍光体を用いた暖白色LEDを開発した。この暖白色LEDは従来の暖白色LEDよりも高い発光効率が得られる。QDはセレン化カドミウムのコアと、長鎖アミンの被膜で覆われた硫化亜鉛のシェルから成り、緑色、黄色、橙色の光を放射する。このQD発光体を標準の窒化ガリウム系の青色LEDに集積して、約90の演色指数と3000K以下の色温度をもつ好ましい光が得られている。このQDはそれ自体が350lm/Wを超える記録的な光放射の発光効率を示している(この値は集積されたLEDからではなく、蛍光体から得られたことに留意して欲しい)。
 適切な構造の表面を照射した光からは表面プラズモン、つまり金属表面上の電子のコヒーレント振動が生成され、光を操作するもう一つの方法が得られる。米リハイ大学、中国科学院と精華大学および米国立科学財団の研究グループは、有機材料の光起電力(PV)セルの性能改善を目的にして、短距離の表面プラズモンポラリトンモードを導波するナノホール穿孔銀膜の活性層を提案し、その偏光無依存ナノパタニング表面の設計とシミュレーションを行った(2)。彼らの計算によると、この構造のPV性能は39〜112%の増加になる。

図1

図1 (a)の暗視野画像は金のバンプを観測できるが、(b)の3D不可視クローク画像はバンプが隠蔽されている。明視野画像でも同様の結果が得られる。(資料提供:カールスルーエ工科大学)

光の高機能化

発明の多くはそれ自体が魅力的だが、将来の実用性が予見される発明も数多い。また、それらが非常に初期の段階であったとしても、フォトニクスの進歩を加速し、多様な応用が生まれると予見される発明もある(これらは光技術の革新ばかりでなく、実世界にも役立つ)。
 フェムト秒レーザによるマイクロマシニングは、長パルスや連続波(CW)レーザによるマイクロマシニングよりも大きな利点が得られる。そこでは物質の融解や蒸発ではなく、フェムト秒レーザによる化学結合の解離が起こるため、周囲に発生する損傷は非常に少なく、透明材料の加工も可能になる。このような加工は一般的にガウス分布の強度をもつビームを使用するが、仏フランシュコンテ大学とオーストラリアのマッコーリー大学の研究グループは、ベッセルビーム(「仮想アキシコン」を生成する位相マスクを用いて形成される)の使用を検討した。その結果、彼らは、ガラス内部に最大40のアスペクト比と最小2μmの直径をもつテーパなしのマイクロチャネルの穴あけに成功した(図2)。その後、彼らはさらに良
好な結果を達成している(3)。研究者の1人のフランソア・クールボアジェ氏(François Courvoisier)は、「われわれは100:1のアスペクト比をもつ非常に長いナノチャネルが単一レーザショットで穴あけできることを実証した」と述べ、この技術を利用すると、直径200nmの周期ナノ構造の穴あけも可能になると指摘している。このグループは得られた結果をPhotonics West 2011の招待講演の場で報告する。
 米プラナリティカ社(Pranalytica)、インフラサイン社(Infrasign)およびカリフォルニア大学ロサンゼルス校の技術者たちは、爆発物資(この場合はTNT)の痕跡量を最大150mの距離から約70までの信号対雑音(SN)比で認識できるレーザシステムを開発した(4)。このシステムは潜在的な問題があると考えられる対象物に対して波長可変炭酸ガス(CO2)レーザ光を照射する。10.653μmの光はTNTにより吸収され、黒体放射が増加する。10.591μmに同調された光はTNTによる吸収が起こらない。両者の光の差を求めると、曖昧さのないターゲット認識が可能になる。最初の試作システムを用いた試験は、爆発物の検出が今日の利用可能な技術に比べて数桁も高い感度で可能になることを実証している。同じ2波長を放射する室温動作の高パワー波長可変QCLからは、空港で人物とその所持品を透視し、爆発物と爆発残留物を認識する装置が開発されている。英フィアニウム社(Fianium)などが開発を先導したファイバによるスーパーコンティニュアム光源は、分光法、顕微鏡法、光学計測などに有用な単一横モード白色光が得られる。現在、英サザンプトン大学とインドのガラス・セラミック研究所(Central Glass & Ce ram ic Research Institute)の科学者たちは共同して、マスタ発振器パワー増幅器(MOPA)励起スーパーコンティニュアム光源を開発している。この光源は0.4〜2.25μmまでの比較的平坦な波長範囲において、これまでで最高となる39Wの平均出力パワーが得られている(5)。この光源は4.4μmのコア径をもつ長さ2mのPCファイバと114.8MHzの繰返しをもつ21psの入力パルスを使用する。研究グループによると、ファイバにエンドキャップを取付け、ファイバを短くすると、吸収損失が減少する。
 米カリフォルニア工科大学(Caltech)が開発したホログラフィック走査顕微鏡と呼ばれる新方式の顕微鏡は、高い空間分解能を維持しながら視野(FOV)を大幅に拡大できる(図3)。これはホログラフィを使用し、532nmレーザ光の200×40スポットから成る光スポット格子を試料に照射し走査することによって実現され、6×5mmのFOVをもつ全体画像を2.5秒で取得できた。0.74μmのスポットサイズからは1.5μmの分解能が得られた。試作された最初の顕微鏡は焦点のフィードバック制御をしていないが、フィードバック制御を取入れて走査ジッタを減らすと、システム性能のさらなる改善が可能になる。研究グループのジガン・ウー氏(Jigang Wu)によると、将来の応用にはデジタル病理検査も含まれ、そこでは顕微鏡スライドの画像化とデジタル化が行われる。また、広いFOVが診断に役立つ血液やパッスメアの直接撮像と検査も行われる。
 太陽電池の検査の高速化を目的にして、シリコン(Si)の光ルミネセンスイメージング技術が開発されている。この技術はオーストラリアのニューサウスウェールズ大学が特許を取得し、スピンオフ企業のBTイメージング社(BT Imaging)が実用化を果たしている。現在、世界中の太陽電池メーカーでこの技術の普及が進んでいる。ウエハから切断されたSiブリック(面積240×15.6mm)と、完全に加工された太陽電池を測定できる。高速の画像処理が行われ、ウエハは毎時2400枚のスループットで走査される。この技術はPVメーカーのインライン監視に使用されようとしているが、将来は半導体やLED産業分野への応用も期待される。

図2

図2 フェムト秒ベッセルビームを用いて形成したガラス内部のマイクロチャネルのチャネル長(a)とモルフォロジー(b)を示している。(資料提供:フランシュコンテ大学)

図3

図3 ホログラフィック走査顕微鏡を用いて取得した6×5mmの有効FOVをもつ米国陸軍標識の画像(a、b)とユリの葯の画像(c、d)を示している。下の2枚の画像は上の2枚画像の一部をそれぞれ拡大して示している。下左の画像には投影された光スポット間のクロストークによるシャドウアーチファクトが現われている。(資料提供:Caltech)

光ファイバの多彩な応用

固体コアPCファイバは内部全反射に基づく導波ではなく、すべての光がバンドギャップの存在に厳密にしたがって導波される。現在の固体コアPCファイバはオクターブに広がるバンドギャップがあり、オーストラリアのシドニー大学のグループが作製したファイバには、低屈折率の領域を取囲む高屈折率のリングから成る介在物が含まれている。その結果、導波モードの遮断は特定の波長に集中し、バンドギャップが大幅に広がる。OSA主催のFrontiers in Optics 2010(FiO: 2010年10月24日〜28日)では、550〜1720nmまでの広い透過バンドをもつ高分子ファイバが報告された(セッションFTuW2:1050nmと1170nmには介在物の高次モードによる二つの狭い中断が生じる)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/01/cf115882dd58664d8df735d33e52c703.pdf