ポイントオブケア診断を前進させる「空間変調放射」
ロバスト、小型、低コストの「空間変調放射」技術は高い信号対雑音(SN)比での識別を可能にし、実用的なオプトフルイディック・バイオ検出を中央集中検査室から持ち出し、患者のポイントオブケア(POC)へと近づける。
現在、POC検査用の小型、ロバスト、低コストの装置は簡単には手に入らないため、生物学と生物医学上の試験の多くは中央集中検査室で実施されている。しかし、POC検査に対するニーズは存在し、その戦略的展望は真に破壊的に変わりつつある。低いコストで適時に検査結果を得て、死亡率を下げ、罹患率を低くするということがこのニーズの原動力である。
フローサイトメータは中央集中検査室にはなくてはならないツールである。しかし、それらのコスト、複雑さ、サイズがPOC診断や環境または産業モニタリングへの適用を阻んでいる。フローサイトメトリは、流体流内の装置を通って流れる生物細胞の物理的/化学的性質を測定するプロセスである(1)、(2)。最新の市販装置は、事実上すべてが生体粒子と光との相互作用を利用し、蛍光、散乱、吸収プロセスを通して特性を解析している。そして、いずれの場合にも使用する基本的な光学配置は同じである。つまり、生体分子は極端に局在化されたスポットを通って高速(一般に6m/s)で移動するため、その照明は非常に強くなり、一般的には光学系(レンズ、反射鏡、開口、フィルタ)の複雑な配列が必要になる。この10年間、流動解析物の評価を単純化、小型化するために、流体ハンドリング(ポンピング、混合、フローフォーカシング)と小型光学系を統合した微小流体チャネルを利用する多くの興味深い構想が開発された(3)、(4)。こうした努力にもかかわらず、依然として、小型、低コストの装置は市販されていない。これを解決し、POC検査のニーズに応えるために、米パロアルト研究所(PARC)ではフローサイトメトリ用の光学検出システムを根本的に再設計した。
空間変調蛍光の検出
われわれの技術、いわゆる「空間変調放射」は高いSN比識別を精密光学系なしで実行し、高性能、頑丈さ、コンパクト性、低コスト、使いやすさを組合せたフローサイトメータの実現を可能にする。この実現技術では、連続的に蛍光を放射する生体粒子が光伝送用にあらかじめ決められたパタンを横切った時に、時間依存信号を発生する。検出された信号を既知のパタンと相関させ、背景雑音から粒子信号の高度識別を達成する。
従来のフローサイトメトリは、励起領域のサイズがほぼ粒子のサイズに制限されていた。われわれの方法は、粒子から放射される蛍光の全フラックスを増大させるために、かなり大きな励起面積を利用する。大きな励起面積にもかかわらず、マスクパタンの利用によってミクロン領域の高い空間分解能が達成される。したがって、流れ方向の粒子間隔が個々の粒子のサイズまで接近したとしても、個々の粒子の独立した検出と評価が可能である。さらに、このコンセプトは、溶液中の他の蛍光成分、チャンバの蛍光成分、表面汚染物質などを起源とする背景蛍光に本質的な耐性をもつ。
空間変調蛍光放射法を流体チャネル内の移動する粒子に適用するために、広い励起面積にわたる光検出器への蛍光入射の強度を空間的にパタン化されたマスクで変調した(図1)(5)。信号の時間依存性はマスクのストライプの空間構造と粒子の速度によって定義される。記録された信号を相関法で解析し、粒子が検出領域を横切るときの強度と時間を正確に計算した。最先端の実時間相関法を使うことによって、毎秒数mまでの粒子速度を評価できた。
小型プロトタイプ
PARCは、空間変調法に基づくハンドヘルド式フローサイトメータを既製部品から組立てて試験した(図2)。最大の部品は低価格の532nmレーザモジュールであり、そのビームは流体チップの研磨されたエンドファセットを通して約1.2×0.1mmの検出面上へと方向付けられる。流体チップは検出ユニットに一体化されている(図3)。このアセンブリには安価なコリメータ光学系、励起光用のフィルタ、一体化されたトランスインピーダンスアンプと集光光学系を備えた小型シリコンフォトダイオードが含まれている。パタン化マスクは流体チップに埋め込まれているため、流体チップと検出器ユニット間のアラインメントは必要ない。現在のバージョンで唯一必要なアラインメントは検出領域に向けたレーザビームの方向付けだが、サイズが大きいため、さほど厳しくない。全ユニットは電池式であり、2本の9Vと4本の1.5V電池で10時間以上連続動作させることが十分に可能だ。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/01/02860c4e432eebdd870df7088642ce13.pdf