新しい超高速科学の研究を可能にする最新の同期技術

イアン・リード、ケヴィン・オキーフ

ポンププローブ分光法の成功は超短パルス発振器システムの時間ジッタの最小化が鍵になる。最近、二つの独立した発振器間の同期が高エネルギー増幅システムに応用され、二つの増幅器間のサブ200fs同期が実現された。

時間分解分光法は世界中の科学者たちに使用され、サブナノ秒の時間スケールのプロセスが研究されている。過去20年間、この技術は大幅に進歩し、より高度な計測機器へのニーズが次々に発生している。これらの進歩は、まず理論的に明らかにされ、その後に実験家たちが新分野の研究を可能にする計測機器の登場を待っている場合もある。このような事例の一つは超短パルスレーザ科学の分野だ。1950年にレーザが出現して以来、科学者たちはレーザ光源、つまり、多数の波長、大きなエネルギー、短いパルスを発生するユニークな光源に対して大きな関心を示してきた。現在のレーザはピコ秒(10−12)とフェムト秒(10−15)のパルスを容易に発生できる。超短パルスレーザの科学技術は現代の化学、物理学、さらには生物学の顕著な進歩を可能にしてきた(1)〜(3)。
 現代の時間分解分光法のなかでは、ポンププローブ分光法、つまり分子物性(例えば2D赤外[IR]ラマン)、半導体物理(例えばキャリア動力学)、材料科学などの過渡現象を測定できる分光技術が最も普及している(4)。この技術は空間と時間の状態が相互に整合された二つの光パルスを使用する。エネルギーの高い第1(励起)のパルスを用いて誘起された試料中の過渡現象は、第2(プローブ)のパルスを用いてサンプリングされる。この過渡現象の時間発展は検出器に到着する励起パルスと探測用のプローブパルスの時間間隔を変える計測法を用いて測定される。時間分解能はプローブパルスの持続時間だけから決まる。最も簡単な構造の場合の励起パルスとプローブパルスは、同じビームを2分割したレーザパルスを使用する。単一パルスを用いることで時間ジッタから生じる問題を回避できるため、この単色ビームによる配置はいくつかの利点をもつ。2台のレーザが必要になる場合、例えば2色実験や単一レーザからのパルスエネルギーが不十分な場合は、その2台のレーザは、パルス間の時間ジッタを最小化して全体の測定精度を最適化するために、同期が必要になる。
 超短パルス発振器システムの時間ジッタの最小化はいくつかの方法を用いて行われる。そこでは光発振器と参照発振器との間で電子的比較が行われる場合が多い。これらの発振器間のジッタの相違は、光発振器の共振器長を精密に調整し、その出力を参照発振器の特性に整合して最小化される。この方法では二つの独立した発振器間の時間ジッタを200fs以内に低減できる。この方式を用いてコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)イメージングなどの技術が開発された。この技術は多数の研究所で採用され、自由電子レーザとシンクロトロンを用いる実験のパルス同期法として使用されている。このアプローチでは信頼性と再現性が確保でき、装置コストも妥当な範囲に収まるが、低エネルギーの発振器にしか適用できない。ごく最近、この同期法が拡張され、より高いエネルギーのレーザ増幅システムにも応用された。

超短パルス増幅器の同期

伝統的な高エネルギー超短パルスレーザシステムの多くは、チャープパルス増幅(CPA)を使用して、超短パルス低エネルギー(nJ)発振器のパルスを高エネルギー(mJ)のパルスへ変換する。高エネルギーパルスからの光損傷は増幅前の発振器パルスを延伸して回避する。フェムト秒パルスの帯域幅は非常に大きい(約10〜60nm)ため、このパルスは回折格子を用いて数百psのパルスへ延伸される。延伸されたパルスは再生増幅器を用いて増幅される。次に高エネルギーピコ秒パルス(数mJ)は圧縮されて当初のパルス幅に戻る。
 このCPAプロセスは複数のレーザ光源、つまり超短パルスを発生するためのシードレーザ、増幅段にパワーを注入するための増幅励起レーザ、さらには増幅器などの同期した動作が必要になる。従来は増幅器スイッチ(ポッケルスセル)を制御するアナログ電子モジュールを使用して、これらの要素部品のタイミングが制御されてきた。これらのスイッチと増幅レーザは同期されるが、シードレーザは「自励」モードで動作する。この方式による動作は多くの用途を満足させるものだが、高精密測定が必要な場合は一つの限界が生まれる。シードレーザと増幅レーザの繰返し周波数は整合しないため、この増幅器システムのタイミングは不整合の関数として変化する。80MHzで動作するシード発振器の場合、全体システムのタイミング不確実性は12.5nsが限界になる。この限界を克服するには増幅器システムの各部品を同期しなければならない。精密な同期を行うには、同期精度を改善して多重増幅器システムの同期を可能にしたスペクトラ・フィジックス(Spectra-Physics)のタイミング遅延発生器(TDG)のようなデジタル方式の同期モジュールが必要になる。

デジタル同期

この数年間で、CPAレーザシステムの全体のタイミング機能を改善するためのデジタル機器が開発された。デジタル電子機器はシードレーザを使用することで、スイッチングエレクトロニクスのタイミングを支配できる。シードレーザからの80MHz信号を約1kHzに分割すると、付加する増幅器システムは一つ以上のシードレーザに対して<200fsへの同期が可能になる(図1)。二つのシードレーザを使用すると、それぞれの増幅パルスの相対的な到着時間はt=0からt=tmaxまで調整できる。ここで、tmaxはシードレーザのパルス間隔に等しい。この調整はシードレーザ到着時間の電子位相を調整することによって行われる。タイミングエレクトロニクス(TDG1とTDG2)は付加される増幅器の部品を制御する。実際に、この利点を生かしたいくつかの方法が実験されている。よく知られた実験例は擬似位相整合(QPM)を用いた高次高調波発生(HHG)である。

図1

図1 スペクトラ・フィジックスの先端的タイミング装置の概念図を示している。二つの再生増幅器システムは200fs以内に同期される。シード発振器の位相を調整すると、0〜12.5nsの遅延を光遅延線の使用なしに発生できる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/01/dc755c66c210a3455a8d7cd74708b5ea.pdf