限りなく実用に近づいた空間光伝送技術
光ファイバ通信では、すでにチャネルあたりl OOGbps 伝送が長距離/メトロで実用段階に入っており、アクセス系ではl OGbps が利用可能になっている。しかし、光ファイバを使用した有線通信だけですべての高速大容量伝送需要に応えることはできない。有線技術で対応できない空隙を埋める技術の一つが、光無線技術だ。
情報通値機構(NICT) が開発している空間光伝送(光無線)技術は、衛星通値の技術をベースにしている。衛星通値の伝送距離は、静止衛星間では7万~8万km、衛星と地上との間で4万kmと言われる。衛星通信で使用していた技術、「相手の位置を識別してその方向に指向性の鋭いレーザビームを正確に当てる捕捉追尾技術」を活用して、地上での光空間通信をNICTが始めたのが2002年頃。それから5年ほどの間に、1OGbps、320Gbp、1.2Tbpsと大容贔伝送の成果が相次いで発表された。これに続いて、2010年5月には、基幹系の光ファイバ伝送で求められる稼働率99.999%がイタリアで達成された。
1OGbps 伝送では、2006年に早稲田大学構内のビル屋上に光無線実験装置を設置し、1kmの区間で数時間にわたり、ビット誤り率(BER)10―9の高品質伝送を確認した、と報告されている。宇宙通信ネットワークグループ主任研究員、有本好徳氏によると、1OGbps伝送はチャンピオンデータ。これを超える実験例はまだ現れていないと言う。
その後の開発は、早稲田大学の実験で使用した装置の小塑化、低コスト化、
実用で使いやすくするために高安定化することがターゲットになった。新開発の装置を使用して、イタリアのサンタナ大学、早稲田大学とNICT が共同で行った伝送実験が、2008 年の320Gbps(8x40Gbps) 双方向WDM 伝送。8台のCWDFBレーザを40Gbpsで変調し、EDFAを使用して2X212mの自由空間光通侶(FSO) リンクを構成した(1) 。このシステムをl.28Tbps(32 x 40Gbps)
にアップグレードした実験が続けて行われている(2)。さらに、その翌年(2009年)9月には、1OOGbpsイーサネット(GbE)プロトタイプ装置を接続して、10日間に渡りNICT内で33m伝送実験を行った。伝送距離の長いリンクでは、2010年1月に調布と小金井間、約8kmでGbE伝送実験を実施。
高信頼リンクの実験では、2010年5月にサンタナ大学内の320mの区間を利用して、1.25Gbpsの伝送容量で稼働率99.999%を達成した。この実験成果の報告は、2011年のOFC/NFOECで発表が予定されている。回線稼働率99.999%は基幹回線に求められる水準(99.98%)を上回る成果。光無線でキャリアクラスの信頼性が実現できることがこの実験で実証されたことになる。有本氏によると、この99.999%は、最悪に近い条件で得られた成果だという。
「前回の実験では、雨一つ降らない天候だったが、今回は極めて悪い条件に恵まれ、その中で99.999%が達成できた。条件としては最悪に近い。実験認可が得られた最長距離320mの途中にあるビルに煙突があり、熱気でかなり強い大気の揺らぎがあった。天候は、若干の小雨を含む5月のイタリアの環境。朝方に薄い霧が出ていた。最終日は通常の雨のデータもとれた。結論として、稼働率の劣化はなかった。320mのリンク長、99.999%の稼働率でlGbps伝送が達成された。」
この実験では、1OGbE伝送も行われたが、BER10-5で稼働率は99.9992% 。1OGは、リンクマージンが小さいため、99.999%には逹しなかったという。
これらの実験成果を生み出すキーテクノロジーは何か。NICT の開発目標である小製化、低コスト化は、どこまで実現されているか。それを見ておこう。
キーコンポーネント
NICT が開発したコンパクトな光空間通倍装置の主要構成部分は、光ユニットと制御ユニットで構成されている(図1)。これらのうち主要部分は、光アンテナ、精追尾ミラー駆動機構、シングルモードファイバカプラ。
装置の役割は、イーサネットスイッチやWDM装置などの光伝送装置と接続して、光信号の送受信をするだけで、光—電気(0/E) 、電気ー光(E/0) 変換はしない。レーザ光を対向の装置に送信し、受け側はその光を「捕捉追尾」するだけでよいが、大気に揺らぎがあり、装置の設置環境に振動があり、光路を烏や虫、人、雨粒などが遮ることがあることを想定すると、捕捉追尾機構には高速、高精度が求められる。基本的な動作原理は次のようになっている。
送受信するのは光信号(1.55μm帯)にビーコン光(0.98μm帯)を多重したレーザ光。望遠鏡が光アンテナとして機能し、入カレーザビームを集め、それをコリメートして平行ビームにする。ビームの揺らぎや到来角変動をミラーの駆動機構で補償して常に安定な平行ビームにしている。ビームは、シングルモードファイバ(SMF)のモードフィールドに完全に一致するようにスポットを安定化する必要がある。有本氏によると、この機構そのものは、カメラの「手振れ補償機構」と同じものだが、カメラの機構よりも100倍の精度が要求される。人射角にすると1000分の1度(1/1000°)のビーム制御精度が必要。この役割を担うのが、ガルバノミラー駆動機構だ。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/12/58fbec1575681f1fbd912c730be3869d.pdf