超大規模DPSSレーザの登場
新しいアルカリ土類フッ化物レーザ材料と改良が続く半導体モジュールの技術は、非常に高いエネルギーとかなり高い繰返し率をもつ半導体励起固体(DPSS)レーザの研究を可能にし、その実用化をうながしている。
高エネルギー超短パルスを中程度の繰返し率で発生するDPSS レーザは、その研究への関心が増大している(表1)。このレーザの応用範囲はアト秒パルス発生用の励起レーザからX線および粒子物理学にまで及ぶ。これらの研究の一部では高エネルギーレーザの超短パルスが非常に強い電磁場用の無類の光源として使用され、その相対性および量子物理学における効果の研究が可能になる。レーザで加速された粒子の応用にも将来性がある。将来の慣性閉じ込め核融合研究を目的にした巨大DPSSは、高いウォールプラグ効率と保守の容易性に加えて、非常に優れたビーム品質と安定性も要求される。極端に高い倍頼性と耐久性を備え、完璧な設計と作製が行われた部品とサブシステムだけが、こうした複数の要求を満たすことができる。
最近の高パワー半導体レーザ技術の進歩は、新方式の高エネルギー半導体励起レーザの組立を可能にし、そのコストを許容可能なレベルにまで低減させた。半導体レーザの実装、励起光の伝送およびビーム均質化の技術は駆動装置の電子技術と組合され、信頼性に対する要求を満たすことにおいて重要な役割を果している。
大規模DPSSレーザの潜在能力を完全に利用するには、新しいレーザ材料、つまり半導体レーザ励起システムの調整された発光波長とドープされた固体レーザホスト材料の吸収波長とのより良い整合を可能にする材料が必要になる。また同時に、これらのレーザ材料は長い蛍光寿命と高い発光および吸収断面積が必要になる。高品質の研磨と被覆による大開口の加工を行うには、それに合せた生産設備も必要になる。
新しいYbドープレーザ材料
大規模固体レーザのパルスエネルギーと平均パワーは、主としてレーザの効率と熱管理能力の制約を受ける。したがって、閃光ランプ励起よりも半導体励起のほうが望ましい。高ピークパワー固体レーザの概念の多くは、ネオジム(Nd3+) ドープホスト材料よりも上位エネルギー準位の寿命が長く(1~2ms) 、量子欠陥の小さいイッテルビウム(Yb3+)ドープホスト材料を利用している。Y3+は915~980nmの波長範囲の励起を行うため、最大70%のウォールプラグ効率をもつ半導体レーザを使用できる。現在までのところ、Yb:YAGがもっ
とも発達した最重要材料である。しかし最近では、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムフッ化物などのアルカリ土類フッ化物に対してイッテルビウムをドープした材料(Yb3+: CaF2、Yb3+: SrF2およびYb3+: BaF2) が半導体励起フェムト秒レーザおよび光増幅器用の材料として注目されている。これらの結晶材料は、最近、その熱伝導率が酸化物結晶やガラスと競合できることが明らかにされた。また、大きな単結晶やセラミックも作製できるため、これらの材料は高エネルギーかつ高パワーのレーザ動作にも適している。さらに、Yb3+ :CaF2は940nmと980nmの両波長による励起が可能なため、励起用の半導体レーザの高度な波長安定化が不要になる(図1)。
Yb3+ドープ利得媒質の分光特性は吸収と発光のための高飽和フルエンスが得られる。Yb3+の擬似三準位系はレーザ波長と室温における退色と再吸収を5kW/cm2の最小励起強度で行うことができる。これによって、高輝度半導体レーザ、励起用の輝度損失の少ない高度なビーム結合、妥当なコスト、高い信頼性への需要が促進される。
励起用の高パワー半導体レーザ
既存のいくつかの開発プログラムは半導体レーザモジュールコストがシステムコストに大きく影響することを示している。影響の度合いはモジュールの集積度に依存するが、50%を超えることもある。
コストの検討はワット当たりコストの詳細な分析から始まる。半導体レーザ素子当たりのパワーの増強はコスト削減の有望な手段である。通常、このような素子は光活性単層の内部に数ダースのエミッタを並列に配置する10mm幅の端面発光半導体レーザで構成される。すべてのエミッタは並列に駆動され、所与のパワーを高い動作電流とく2Vの電圧降下で発生する。
最近の半導体レーザ実装技術の進歩と前面被覆技術の改善によって、はるかに高いピークパワーや長寿命が高パワー半導体レーザバーで逹成可能となった。チップとヒートシンクの熱膨張係数を整合させることで、半導体レーザバーのサンドイッチ構造の硬質はんだ実装が可能となり、セラミック—銅基板を介した背面伝導冷却との組合せによって、レーザバー当たり300W以上のピークパワーが達成された(図2)。レーザバー当たり500W のピークパワーも間もなく実現されると考えられる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/12/09a7a4f83a2f53f8715849e5432b02b0.pdf