照明設計ソフトウエアに新たな要求を突きつけるカラー光源
建築士、電気技術者および都市計画担当者などの照明設計の専門家は、照明設計と照明解析のソフトウエアを利用して、建物や道路の照明レベルを計算する。その設計は公共安全の利益のための国家規格と国際規格を満たさなければならないが、景観への配慮も必要となり、芸術性が要求される場合もある。つまり、優れた照明は、われわれだれもが歓迎する類のものである。したがって、照明の設計解析ソフトウエアは二つの役割を果す必要がある。第1 に建築環境における光の分布を正確に予測できなければならない。第2は(必須ではないが)環境の物理的にもっともらしく見える画像を再生する必要がある。数表や描画は有用だが、光の効果を設計するときは「1枚の写真が千もの言葉の価値をもつ。」今日のソフトウエアはこれらの要求を十分に満たしているが、建築の分野では高輝度の発光ダイオード(LED) による固体照明の実用化と自然な昼光照明の再評価とが一緒になり、市販とオープンソースの両方のソフトウエアに対して新しい機能を持ち込んでいる。
理論
専門家による照明設計は、何よりもまず、その専門分野が工学の領域に帰属する。電気照明の場合、その設計は照明器具の測定された照度分布(光度測定データ)から始まる。照度分布の情報は照明器具メーカーから提供され、メーカー製品の封印された設計図と同等の価値をもつ。
自然な昼光照明の場合は、直射した太陽光と拡散した昼光の分布と強度を正確に予測するいくつかの「スカイモデル」があり、これらのモデルは日付と時間、地理的位置および気象条件をパラメータにしている。また、ほとんどの場所は気象データの履歴を利用できるため、年間の昼光条件は日毎および時間鋸の予測が可能になる。
次の段階は建築環境のモデリングが課題になる。従来の室内のモデリングは、壁50%、天井80%、床20%の反射率を仮定し、部屋は中空の長方形からなるものとされてきた。道路環境のモデリングはさらに簡単で、逆二乗則を用いた直接照明の手計算で行われてきた。現在の照明設計は3 次元(3D) CAD設計が普及したため、その多くは建築設計プログラムを用いて、複雑な設計が見事に行われている。このようにしてモデリングが完成すると、照明設計者は設計図の各面に材料の色と模様を割り付けるが、その反射率と照明器具の光度測定データは自動的に決定される。現在は芸術と科学がソフトウエアを通して融合し、3Dモデル内の光の分布は反復して計算される。この反復計算は電気照明と昼光照明(存在する場合)による各面の直接照明の計算から開始される。光は各面の材料特性に対応して、その一部は吸収されるが、残りは反射または透過(バウンス)して他の面へ向う。
この間接照明のそれぞれのバウンスによって、光の分布の計算は最終の解へと収束する。数学的に言うと、これは(非常に大きい)行列式を解くヤコビ反復法と同一の過程になる(1) 。
これらの計算には「放射フラックス伝達法(ラジオシティ法)」と「レイトレーシング法」の二つの基本的アプローチがあり、いずれも長所と短所を備えている。ラジオシティ法は有限要索法であり、各面を多角形の要素に分割する(2) 。ユーザはすべての面の輝度分布を決定し、すべての視点からの環境を対話形式で観察できるが、モデリングは拡散面からの反射に限られる。
レイトレーシング法はユーザが設定した視点から可視できる各面に戻る光線の追跡が含まれる。「放射照度キャッシング」や「光子マッピング」などの技術を用いると、拡散面と鏡面の両方からの反射を正確にモデリングできるため、より現実的な光の表現が可能になる(3) 、(4)。しかしながら、ユーザはレンダリング画像として観察できる面の輝度分布しか決定できない。
ラジオシティ法とレイトレーシング法を組合せて両者の長所を利用することが可能だが、これは市販のソフトウエアのほとんどに採用されている(図1) 。
応用
照明設計ソフトウエアは人間の活動に必要になると考えられる電気照明と昼光照明のすべての場所に応用できる。それらの事例には、建築物の内装と外装、スポーツ施設、道路とトンネル、劇場と浪奏会場、工場用地などが含まれる。このように照明設計の応用は多岐にわたるため、測定と計量では数多くの尺度の考慮が必要になる。
水平照度の測定は最も広く用いられ、オフィス環境の実際もしくは仮想の作業面に入射する光量(フートキャンドルまたはルクス)を測定する。日常的に使われる照明設計ソフトウエアの90%以上が水平照度を用いていると推定される。垂直照度はそれほど使われないが重要であり、例えば、通過駅のプラットホーム上にいる人物の顔の認識に十分な光量が得られているかどうかの判定に使われる。
その他の測定尺度には、外装(とくに建物のファサードや記念碑)の照度に使われる光束発散度(1m/ft2または1m/m2と輝度(cd/m2、内装の電気照明の照度に使われる照明パワー密度(W/ft2と屋内統一グレア評価(UGR) 値、スポーツ施設の照明に使われる照度均一性の勾配および係数、小型標的可視度(STV) 、適合標的効率(FTE) および道路照明に使われる舗装と被覆の輝度、建榮の昼光照明設計に使われる昼光指数とLEED 2.1判定基準などがある(図2) 。
ラジオシティ法による計算には、計算がいったん終わると、仮想光度計を配置し、環境の全方向の照度を測定できる利点がある。対照的に、レイトレーシング法による計算はユーザが特定する視点での照度に限定され、新しい視点を選択すると、終了まで数分から数時間を要する照明計算の反復が必要になる。一般の大規模建築プロジェクトに使われるソフトウエアは、数十万から数百万の多面体要素問の光反射の反復計算が必要になる。
通常の建築照明設計は地方自治体、州および連邦政府のさまざまな建築基準法の規制を守る必要がある。これらの規制は米国グリーンビルデイング委員会(US Green Building Council) のエネルギー環境設計リーダシップ(Leadership in Energy and Environmental Design: LEED) などの省エネルギーの要請を取入れており、その認定プロセスはますます複雑になっている。この規制は昼光照明も対象となるため、設計者は年間の気象データに基づいて、日付と時間、地理的位置、場所の方向、天空条件などを考慮しなければならない。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/12/2d14dee0eb02118c651b59beb41041c8.pdf