PINEMによって実現された4Dイメージング

透過塑電子顕微鏡法(TEM)は、現在でもなお、ナノメートルないしそれ以下のスケールにおける強力な撮像手段である。しかし、2009 年後期に米カリフォルニア工科大学(Caltech)で開発された革新的技術、いわゆる光子誘起近接場電子顕微鏡(PINEM)は、電子と光子の相互作用をナノスケールで合体し、微視的プロセスのフエムト秒(fs)時間スケールの画像を可能にした。これはまさに、ナノスケールイメージングに第4の次元、時間を追加したことになる(1)。その後、半年も経たないうちに、PINEM 技術はライフサイエンスに適用され、生物構造内で起きている超高速過程の無標識の4D(4 次元)イメージングに利用され始めた(2)。

電子コントラストを増強する光子

電子顕微鏡法において、撮像対象試料を通過する電子はその運動エネルギーを保存(弾性過程)または試料へ伝達する(非弾性過程)。これらの無損失弾性または低損失非弾性の電子散乱を使って画像が形成される。原子番号が大きい試料の場合、コントラストは静的画像(数秒にわたる時間平均)でさえ強くなる。しかし、生物試料や組織は原子番号が小さく、標準的なTEM 画像では低いコントラストしか得られないため、研究者たちは超薄切片化と染色法または複雑なエネルギーフィルタリングに頼らざるを得ない。
 レーザ支援表面光電効果とプラズモニクスなどの他の光子—電子相互作用の実証がCaltecのPINEM技術開発の基礎になった。フェムト秒レーザパルスと超短電子パケットを一つのナノ構造上に時空間的にin situ (その場)で重ね合わせた時、電子が光子エネルギーを吸収するユニークなエネルギー利得領域が観測された。電子による光の吸収と放出が光子エネルギーの整数倍の位置にエネルギースペクトルのピークを生み出した。PINEM は、光子を吸収した電子をエネルギーフィルタリングによって選択し、それらの利得事象の時間変化を撮像する。試料近くを飛行する電子だけが光子を吸収するため、ナノスケールのコントラストは、原子番号に関係なく、どのような試料でも増強される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/10/20b51634a6aaea9691587caacd14b5b7.pdf