反射光学系の恩恵を受ける撮像システム

ニコラス・ジェームス

反射光学系は高いパワーを広い波長スペクトルで処理することが可能であり、より単純で低コストの屈折光学系の代替方式になる。

伝統的な光学系の設計はレンズの屈折性に依存しているが、レーザ波長の広い範囲の動作を必要とするマルチスペクトルの用途では、レンズを用いるシステムは大きな欠点を示す場合がある。一方で、高いパワーを広い波長スペクトルで扱う場合は、反射光学系が単純で低コストの選択肢になる。
 屈折レンズをレーザ集束やマルチイメージングの用途に利用しようとすると、その設計は二つの大きな困難に直面する。その一つは事実上すべての媒質に存在する分散特性であり、そこではレンズを通過する光の速度が波長に依存して変化する。分散は入射した光のさまざまな波長が同一の場所に集光することを妨げる。この問題は複合レンズを使用することで、つまり異なる光学特性をもつ複数の材料を適切に選択し、それぞれの分散が相互に打ち消されるように組合せることによって解決できる。
 しかしながら、このアプローチは可視光、近赤外線(NIR) 、短波長赤外線(SWIR) などの特定領域内の限定されたスペクトルバンドでしか使えない。バンドが広くて複雑な補正が必要になる光学系は、より多くのレンズを用いた構成が必要になる。このような複雑構造のアプローチによる屈折光学系は、設計と作製に必要となる時間とコストの制約ばかりでなく、レンズ材料の化学的性質と多数のレンズの必要性のために、その光透過の範囲が基本的に制約される。
 このことは屈折光学系に対する二つ目の欠点、つまり光吸収の問題を引き起こす。高パワーレーザ集光システムは、非常に小さい比率の光エネルギーが吸収されても、レンズは突発故障に遭遇する場合がある。従来の解決策はレンズ材料とコーティング材料を選択し、レーザ波長の透過率を最大にすることであった。
 残念なことに、マルチスペクトル動作と高いレーザパワーの両方が必要になると、この二つの解決策では相互補完ができなくなる。屈折光学系は波長帯が広くなると、反射防止コーティングの極端に高い透過率の維持能力が大幅に低下する。したがって、従来のレンズ系は、限定されたマルチスペクトルまたは高いレーザパワーに対して動作するものしか作製されず、両者を同時に満足させることはできなかった。

必要となる多重レンズ

このジレンマに内在するコストがとくに影響するのは、生産時のフラットパネルデイスプレイの検査とリペアの応用においてである。この応用はフラットパネルの全面を可視光で走査して不純物と欠陥を探し、欠陥がいったん認識されると、1064nm Nd: YAGなどの高出カレーザを使用した欠陥のアブレーションが行われる。この用途に適用できる単一光学系はIRと可視のスペクトルの透過率が高くなければならない。また、この光学系はIR と可視の両方の光を同一の場所に集光し、欠陥を信頼性のあるレーザの標的にする必要がある。
 このように複雑で要求の多いレンズ系は、広いスペクトルを透過できる材料が見出されたとしても、高価なものになる。したがって、今までの解決策は、2組の複合対物レンズ系を使用することであった。第1の複合対物レンズ系は可視光の走査に使われるが、この場合は、アラインメント用のHe-Neレーザを組合せ、そのスポットも同一のレンズ系を通して投影する。He-Ne レーザのスポットが欠陥にアラインメントされると、レンズ系を実装したモータ駆動のタレットが回転し、可視光用の対物レンズ系は光路から離れ、レーザアブレーションを行うNIRレーザ用の対物レンズ系に置き換えられる。
 このアプローチは2 組の複合対物レンズ系とモータ駆動タレットを使うため高価になり、保守費用も高くなる。また、NIRレーザ用の対物レンズ系は可視レーザ用の対物レンズ系と同一の場所に焦点を結ばないため、欠陥だけのレーザアブレーションを保証するには、光学系のアラインメントが童要になる。
 反射光学系は基本的に反射鏡が波長に依存しないため、この用途に対して少数の光学部品で対応できる。焦点は幾何学配置だけから決まり、多数の光学部品による補正を必要としない。反射光学系の反射鏡の反射率だけに依存する光のスループットは波長に依存するが、その依存性は強くない。lOμm 、20μm またはそれ以上のスペクトル範囲をもつ反射金属コーティングを適用できるため、反射鏡は深紫外(DUV:150nm) から長波長赤外線(LWIR: 20μm) を超える波長までを扱うことができる。高いレーザパワーからの熱蓄積を回避するための超高反射率が必要になる場合は、反射鏡に特殊なレーザコーティングを施して、使用レーザ波長の光のスループットを最適化すればよい。このコーティングは、残りのスペクトルにわたって、システム性能に重大な影響を与えることなく行うことができる。

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出典元
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