大気のレーザリモートセンシングを推進する新たなニーズと技術
地上の400カ所のライダステーションから構成されるネットワークが天気予報や気象研究に用いられる大気特性のデータを収集する。
新しいユーザニーズと新しい技術が大気レーザリモートセンシングの伝統的な分野を復活させている。ライダ(LightDetection And Ranging; Lidar)システムは40 年にわたって、大気データを地上、空中および宇宙空間から収集してきた。これらのデータは大気の研究ばかりでなく、天候と気象をコンピュータで計算するときの重要な入力として使われている。今年4月、欧州の航空輸送を中断させたアイスランドからの火山灰の拡散が追跡されたように、レーザ機器は予想もしないニーズの重要な情報を提供する場合もある。大気センシングはレーザ、検出器および信号処理技術の絶えることない改良の恩恵を受けてきた。米南フロリダ大学のデニス・キリンジャー氏(Dennis Killinger)によると、30 年前のランプ励起Qスイッチ固体レーザを用いたライダの価格は10 万~ 20 万ドルであった。半導体励起固体(DPSS)レーザはライダの効率と性能に改善をもたらした。現在、擬似雑音変調方式の連続波ファイバレーザあるいは高いパルス繰返し周波数のナノ秒パルスファイバレーザを用いるライダは、価格が1 万~ 2 万ドルになり、エネルギー効率が改善され、電力と冷却の必要性も低減している。これらの開発によって、ライダはより広い環境分野に適した手ごろな価格の観測機器になった。また、米国連邦政府の省庁間委員会は、天気予報や気象研究用のデータを大規模に収集するために、400 カ所の新しいライダ利用大気観測所からなる観測網の全米展開を提案する予算書の作成を進めている。
大気ライダの方式
大気ライダは地上配置の雲高測定装罹が最も簡単な方式になる。この装置は点火した半導体レーザのナノ秒パルスを雲の基底に向けて垂直に照射し、戻り光の時間を計測して、雲の高度を測定する。雲からの散乱光はバックグラウンド空気の光よりも強いので、雲や降雨による散乱ピークが観測される。その他のライダは透明空気のレイリーまたはラマン散乱に基づいているが、その測定距離はレーザ出力と値号処理システムに依存する。レイリー散乱の波長はレーザパルスの伝送波長に等しく、離散した単一物体からの散乱ではなく、空気の広い体積からの散乱が戻るため、その検出は簡単なレーザレーダよりも複雑になる。戻り信号には二つの未知量の情報、つまり後方散乱係数と大気透過率が含まれる。そこで、実際には未知贔の一つを仮定し(モデルまたはその他の情報に基づく)、測定データからはもう一つの未知量を計算する。このようなラ
イダは比較的簡単に構成され、光散乱エアロゾルの空間プロファイルの測定に使われている。ラマン散乱は非弾性散乱のため、光はレーザ波長からシフトした波長で散乱され、波長のシフト量は散乱分子の特性値から決まる。ラマン散乱による方法はシフト波長の雑音レベルが十分に低くなる利点をもつが、レーザ波長の弾性散乱による戻り侶号に比べると、エネルギー効率が四桁も低くなり、適切な戻り信号を得るには高出カパルスが必要になる。それぞれの分子には固有のラマンシフト量があるため、ラマン散乱の波長範囲を観測すると、多重分子種の同定が可能になり、窒素のような共通気体の既知の濃度を使うと、大気圧の精密測定が可能になる(図1)。窒素と水蒸気からのラマン散乱を同時に計測すると、二つの分子種の混合比を知ることができる(図2)。大気の成分はそれぞれが固有のラマンシフトを示すため、それらの波長範囲を測定すると、複数の成分種を検出できる。広く使われる方法は水蒸気と窒素の散乱を同時に測定し、窒素散乱と水蒸気散乱のデータの比率を求めて両者の混合比を計算する。エアロゾルからのレイリー散乱と窒素からのラマン散乱の両方を測定する二重検出システムは、窒素に対するエアロゾルの混合比を測定できる。このシステムはレイリー散乱だけを測定する場合の仮定を必要としない。ドップラーレーダと同様に、ドップラーライダは戻り信号の周波数シフトを検出して風速を測定する。この方法は風速と風向が急劇に変動するウインドシヤや大気乱流などの規模の小さい範囲の測定に適している。米国立海洋大気庁大気ライダ部の主任を務めるマイク・ハーデイスティ氏(Mike Hardesty)によると、このような大気変動の起こりやすい空港のいくつかはドップラーライダシステムを採用している。ドップラーライダシステムは、風カタービンや風力発電施設のまわりの空気流プロファイルを測定し、発生する電力も評価できる。タービンや風車の劣化を引き起こす可能性のある乱流やウインドシャを調べることもできる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/08/971f8f845d4d8f5978c42b25fcd761f9.pdf