縮小するCMOS画素のダイナミックレンジを回復する新たな技術
CMOS検出器は解像力の向上のために画素サイズの縮小を押し進めている。それにともなって、撮像素子の性能を維持する、もしくは増強するための高ダイナミックレンジ(HOR) 技術が必要とされている。
携帯電話のカメラを使って明るい窓の前に立つ人物の屋内写真を撮影したことがあるならば、CMOSイメージセンサのダイナミックレンジが狭いことを経験しているに違いない。明るい屋外シーンを解像可能にすると、窓の前に立つ人物はほぽ完全に黒くなり、人物を十分に露光すると、屋外シーンは完全に飽和して白くなる。シーンのダイナミックレンジがイメージセンサのダイナミックレンジを超えると、シーンの細部はひどく不明になり、不満足な画質になる。
CMOSイメージセンサのダイナミックレンジを広げ、高ダイナミックレンジ(HDR) 撮像素子を実現可能にすることは、その重要性がさまざまな応用で増大している。標準的な撮影シーンの明るさが数桁も変化する自動車センサの場合はHDR 動作が必須になる。より小さな画索でも撮像性能を維持できる手法への関心も高まっている。CMOSイメージセンサの設計者は画素サイズを積極的に縮小して解像力を増強し、ダイのサイズを小型化している。しかし、画素サイズが小さくなると、画素自体のダイナミックレンジが影響を受ける。幸いなことに、HDR 技術を使うと、センサの設計者は失われたダイナミックレンジを回復し、撮像素子の性能を維持し、あるいは増強することも可能になる。
ダイナミックレンジ
イメージセンサのダイナミックレンジは、センサの最大出力信号をノイズフロアで割算した値で定義され、デシベル(dB) で表示される。この値は入力に参照され、一般に画素フォトダイオードの等価電子数として与えられる。例えば、1万電子の「十分な」電荷蓄積容贔と3e—(電子)の入力参照雑音をもつイメージセンサのダイナミックレンジは、その他のセンサ伯号列の最大値号スイングを限定する回路がないと仮定すれば、70dBになる。
民生用CMOSイメージセンサの場合、70dBのダイナミックレンジはかなり標準的な値だが、自然のシーンはダイナミックレンジが1OOdBを超える。画素のダイナミックレンジは「十分な」電荷蓄積容量をさらに増やすことで拡大できるが、CMOSプロセスは画素の小型化にともなって低電圧側へ移行しており、このことは「十分な」電荷蓄積容屎をもつ画素を小型化する方向とは逆の動きになる。
雑音低減も選択肢になるが、信号列の雑音低減には限界があり、とくにビデオ速度の高解像センサの読取り速度が増加すると、その限界は顕著になる。また、印加電圧が一定のときには、「十分な」電荷蓄積容量の増加と入力参照雑音の減少とが相互に反対の働きをする。このことは「十分な」電荷蓄積容量が大きいほど、フォトダイオードの電子から画素の出力電圧スイングヘの変換を意味する画素の変換利得が減少することにより生じる。雑音を画索入力に参照させるには、信号列の電圧雑音の変換利得による割算が必要になる。つまり、「十分な」電荷蓄積容量が大きいと、入力参照信号列も増加し、ダイナックレンジはまったく改善されないことを意味している。
HDR センサの設計法
画素の「十分な」電荷蓄積容最の増加または雑音の低減を用いる直接的な方法には限界がある。したがって、広いダイナミックレンジのシーンを撮影するセンサは、いくつかの代替法を採用している(表1) 。これらの方法は二つのグループ、つまり画素の露光時間の変調による技術と画素の変換利得の変調による技術とに分けることができる。
非線形変換利得変調技術は、光に対する線形応答ではなく、対数関数の応答を示す画素を使用する。この技術は大歴の較正作業が必要になり、プロセス、電圧および温度(PVT) の変化に対して非常に敏感になることが欠点になる。また、非線形出力の場合は色補正がセンサ出力の全域において非常に難しくなることも欠点になる。線形性を維持する二つのアプローチは、それぞれの画素にラテラルオーバーフロー積分キャパシタ(LOFIC)とニつのフォトダイオード(感度が異なる)を使用する(1)、(2)。このような設計の画素では2 回の読取り、つまり低い光量に対する読取りと高い光贔に対する読取りが行われる。
これらの技術はいずれも、従来の画素設計の大幅な修正が必要になるが、その結果として、感度と暗電流の性能が劣化する。変換利得の代わりに積分時間を変調すると、画素の修正が軽減される。この方法の最も簡単な例は、従来の画素設計の修正を必要としない多重露光法の利用に見られる(3)。この場合の画像アレイは一つのフレームの積分時間を何回も変えて読取りが行われる。読取られた多重画像は、外部フレームメモリを用いて処理され、最終のHDR画像に融合される。単一露光の場合に比べると、信号列は露光回数に応じて非常に高速に走行する。
画素積分時間が画素ごとに個別に制御できると、多重フレームの読取りが不要になる。それぞれの画索出力は積分時に検査され、画素は飽和状態にどれほど近いかに応じて、条件付き初期化が行われる。必要となる各画素の積分時間を記憶するメモリが必要になる。
変調積分時間技術の場合はモーションアーチファクトが一つの欠点になる。このアーチファクトは積分が異なる時間で行われ、シーン内部の動きの異なる部分が取得されることから生じる。
最後に、画素にはコンパレータとして動作する回路が組込まれ、画素からの出力はアナログ侶号ではなくデジタル信号になる。この技術は非常に広い帯域幅と最終画像を再構成するメモリが必要であり、画素の感度は電子回路を付加することで減少する。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/08/ff5008cc00ed2b6c800a59deeb0a1313.pdf