フォトニクスの新しい成長機会を創造する緑色レーザ

ポール・ルディ

直接発光方式の緑色レーザダイオードは多数の利点をもつが、なかでも高効率と動作寿命によって可視レーザの用途が拡大し、新しい成長機会が創造されると期待されている。

最近の緑色および青色半導体レーザの商業化の進展は、既存市場の拡大ばかりでなく、新しい成長分野を創造しようとしている。可視光「ダイレクトダイオード」レーザの固有の利点は、防衛、産業、医療などの弾力性のある応用市場の成長が可能になり、半導体レーザ以外の可視レーザとの置き換えが始まると期待されている。また、特殊ランプや発光ダイオード(LED)のようなレーザ以外の光源のユーザが半導体レーザヘ転向することにより、デイスプレイや照明分野で新しい応用が生まれるであろう。
 可視レーザの応用は、まずヘリウムネオンとアルゴンイオンの気体レーザから始まり、その後はランプ励起固体525レーザ、半導体励起固体(DPSS)レーザ、赤外半導体レーザヘと続き、その後に第2高調波発生(SHG)技術が導入された。SHGレーザシステムは、今日の青色および緑色レーザの特殊な用途には適用できるが、大量に使用する用途では、効率が低い、高価で大型、温度に敏感、壊れやすいなど、SHGレーザに固有の問題が解決されていない。小型で安価な赤色半導体レーザは容易に利用できるが、赤色が最適波長として選択されず、青色または緑色が必要になる応用も数多くある。
 中村修二氏らは、1995年に最初の窒化インジウムガリウム(InGaN)系の可視半導体レーザを実証した(1)。レーザはサファイア基板上に作製され、紫外領域で発振した。この実証によってコストの低減、形状因子の小型化、耐久性の向上、温度感受性の低減、設計柔軟性の増加、効率の向上などを可能にする新しい方式の「ダイレクトダイオード」可視レーザの誕生が示された。この最初の実証以降、InGaN系レーザは、紫外領域と青色領域における発光効率と寿命が急速に改善された。そこでは量産技術の開発が行われ、ブルーレイデイスクなどの応用が可能になった。ごく最近では、無極性および半極性GaN 基板上にInGaN半導体レーザを作製する革新的な技術が開発され、青色半導体レーザの発光効率のさらなる向上が可能となり、連続波レーザ発振の波長は520~525nmの緑色領域にまで拡大可能になった(図1)(2)。
 このような直接発光方式の青色および緑色レーザは、「緑色半導体レーザの利点」(p.36)で述べたように、従来のSHG 青色および緑色レーザに比べると、索晴らしい利点が得らる。直接発光方式の青色および緑色半導体レーザが広く利用可能になると、その利点は可視レーザの産業に移転され、既存の応用の拡大ばかりでなく、新しい応用も生まれると期待している。

図1

図1 lnGaN系の半導体レーザは1995年に初めて実証された。それ以降、その発光波長は緑色へ羞実に進歩した。

防衛とセキュリティ

防衛やセキュリティの分野には青色および緑色レーザのさまざまな応用があり、ポインティング、警告、脅威の検出、海底通桐、ヘッドアップデイスプレイ、プロジェクションデイスプレイなどの用途が含まれる。防衛やセキュリティの分野の応用は、次第に大規模集中方式の特殊設備から陸上では分散方式の携帯機器、上空では無人飛行機(UAV)、海上では超小型船へと移行している。このような動向のなかで、保安要員と戦闘員にとっての緑色および青色半導体レーザの重要性は増大しているが、これは上述したように、SHGレーザと比較したときの利点があまりにも大きいことによる。
 その一例を述べると、緑色半導体レーザは非致死性脅威検出レーザを大規模に展開するときの理想的な解決策になる(脅威判定、脅威緩和、視覚警告技術、レーザめくらまし、「ヘイル・アンド・ワーニング」とも呼ばれる)。これらの手段のエンドユーザには戦場の兵士、国家防衛官、警察官、敵対可能性の状況下にある安全保障の関係者などが含まれる。脅威検出は脅威緩和の判定尺度になるが、同時に、強力な視党警告、つまり近づいてくる敵対者グループを「めくらまし」状態あるいは一時的な盲日状態に誘導し、しかも眼には永久損傷を与えない警告の発動の必要性を判定する尺度にもなる。
 このような用途のレーザは装置の携帯性とロバスト性の要求を満たさなければならない。眼は緑色波長に対して最も敏感に反応するため、めくらましには緑色光源が必要になる。光パワーが等しくても、人間の眼の緑色光に対する感度は赤色光に比べると5倍以上になるため、この用途に対しては赤色半導体レーザは実用的ではない(図2)。この用途では三段DPSS レーザを使用しているが、エネルギー効率はかなり悪く、壊れやすく、アラインメント温度に敏感で、波長は532nm に固定されるという煎大な制約がある。前述したように、単一段の小さなチップから緑色レーザビームを直接発生するInGaN半導体レーザは、現在のDPSS システムの欠点を排除できる。
 ダイレクトダイオード方式の半導体レーザの利点を活用すると、緑色レーザの大規模展開にともなう障害が除去され、ほとんど全ての兵士やUAV、小塑船舶などへのレーザの標準装備が可能になる。

図2

図2 人間の眼の波長感度曲線を示している。この曲線から分かるように緑色レーザは赤色レーザよりも眩しく感じる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/08/7413015c40cf9d76daf61ac985cce9df.pdf