次世代AO天文学への準備が整った高出カレーザガイド星

ジョン・ウォレス

驚くほど高い光出力をもつ2種類のナトリウムレーザガイド星がAFRIのスターファイア光放射施設とヨーロッパ南部天文台から個別に発想され、それぞれが個別に開発された。現在は両者のレーザがそれぞれ製品化されている。

地上に配置された主要な天体望遠鏡は、適応光学(AO) を採用して、大気乱流の影響を仮想的に除去し、宇宙空間で動作した場合とほとんど同様の解像力を実現している。現在計画されている複数の光学望遠鏡はあまりにも大型なため、宇宙空間に打ち上げることはできない。このような地上配置の巨大観測装置を動かすにはAOが必須の手段になる。
 望遠鏡用のAO光学系の多くは、大気乱流よりも上層にあり、望遠鏡の視野のどこかに現われる明るい点状の光源を頼りにして動作している。この点光源は「ガイド星」として使われ、測定された波面収差がAO補正の入力として使用される。最初のガイド星は実際の星であったが、明るい星の数は限られるため、これらのAO補正望遠鏡は非常に狭い範囲の夜空しか観測できなかった。
 はるかに汎用性のあるアプローチはナトリウム原子の589nm波長を放射するナトリウムガイド星レーザを使用し、レーザビームを照準光にして、夜空の中間層に明るい点光源を生成する。この人工ガイド星は所望のすべての場所に配置できるため、天空のすべての場所からAO補正された鮮明な画像を取得できる。高出カガイド星レーザは大きな利点をもつが、信頼性と簡便性を備え、数十ワットの出力が589nmで得られる産業用品質のレーザの構築は容易なことではなかった。しかしならが、以下の二つの論文が示すように、その構築は不可能ではなくなった。

注入同期と和周波数発生による50Wガイド星レーザ

クレイグ・デンマン
現在は設計段階にある次枇代の望遠鏡は、AOを使用して宇宙空間に配置された望遠鏡と同等の解像力を実現する。これらの望遠鏡の設計に必要となるナトリウムガイド星レーザは25W 以上の光出力、回折限界のビーム品質およびナトリウム恥スペクトル線の589.15905土0.00005nmの波長精度が必要になる。この光出力と波長精度をもつレーザビームが90km 上空の中間層にあるナトリウム層(流星の残留物)に入射すると、ナトリウムは非常に強い蛍光を発生し、遠く離れた地上のAO光学系にとって必要な点状の参照光源になる。
 現在のガイド星レーザは色素レーザと和周波数発生モード同期固体レーザが使用されている。これらのレーザを用いることで、そうでなければ不可能であった天体観測が可能になった。しかしながら、さらに強い光出力と自動操作による信頼性の改善が必要であった。
 2001年に、米国陸軍研究所のスターファイア光放射施設(Starfire Optical Range) は新しいガイド星レーザの設計を提案した。スターファイア光放射施設の任務は「宇宙空間の状況認識」にある。つまり、軌道上の人工衛星の観測と定義され、その結呆、この組織はAOの開拓者として知られるようになった。新しいガイド星レーザの設計は周波数付加光放射光源(FASOR) と命名された。
 スターファイアFASORは1064nmと1319nmの2台の連続波Nd:YAGレーザの和周波数混合に基づいて589nm光を発生する。これらのNd:YAGレーザは低出力の単一周波数ビームを共嗚増幅する注入同期技術を使用して高い単一周波数出力を実現する。二つの近赤外線は三ホウ酸リチウム(LBO)非線形光学材料内部の共嗚和周波数混合により589nmの可視光になる。スターファイアFASOR は米ジェイデイーエスユニフェーズ社(JDSU) コマーシャルレーザ部門が開発した非平面リング発振器と直接結合励起の技術に基づく同社の能動レーザ部品を使用している。
 2005 年になると、FASOR は常に使用されるようになり、AO関係者は大量の光がナトリウム層から戻り、レーザが簡単で一貰性のある動作を示すことに驚いた。その強力な戻り光にはレーザの50W を超える光出力ばかりでなく、非常に狭くて安定な単一周波数スペクトル線幅から予想外に高い蛍光効率が得られたことも寄与している(図1) 。2008年になると、スターファイア研究グループのクレイグ・デンマンとポール・ヒルマンおよびJDSU のトム・ケーンはそれぞれ退社し、FASOR トロニクス社(FASORtronics) を創立した。FASORトロニクス社の事業目的は単一周波数FASOR技術をナトリウムガイド星レーザとして商品化することにある。主要な天文台との契約に支えられて、FASORトロニクス社は次冊代望遠鏡の使用に適したレーザ設計を行った。
 FASORトロニクス社のナトリウムガイド星レーザは、完全に近いビーム品質と測定器の能力だけに制約される波長精度によって、50Wの光出力を得ることができる。この設計を恥b ポピュレーション励起用に選択できる光周波数に組合せると、ガイド星の放射輝度の増強が可能になる。レーザヘッドと電源装置は30m以上の距離で分離し、あるいは積層して600X900X1200mm (高さ)の体積に収めることもできる。全体システムは童力方向の変化が許容されるため、望遠鏡の最後部にある最も移動する構造に搭載することもできる。
 ナトリウム吸収スペクトル線への589nm周波数の高速オンオフ同調、波長計とナトリウムセルを用いる絶対周波数較正、光出力制御および光学的アラインメントは、いずれもグラフィカルユーザインタフェースによる遠隔制御が可能である。

図1

図1 スターファイア光放射施設の3.5m天体望遠鏡からの50W FASORビームは、2005年4月26 日の夜空の中間層ナトリウム暦にガイド星を生成した。FASOR トロニクス社が製品化したレーザ装置(挿入図は装置の外観と容器パネルを外した状態)は単一周波数IRレーザモジュールと和周波数発生器から構成されている。(資料提供: FASOR トロニクス社)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/08/74c572dbb380d50c1953eef64765f7e2.pdf