固体レーザを置き換えるフェムト秒ファイバレーザ
固体レーザと競合する高出カフェムト秒ファイバレーザは、不十分なパルス幅が実用化の障害になっていたが、パルスとスペクトルの成形技術が進歩して、その障害が崩れようとしている。
固体レーザ(80MHz、1WのTi:サファイアレーザなど)と競合して生物医学に応用されるファイバレーザは、非線形イメージング、生体組織アブレーション、コヒーレントスーパーコンテイニュアム発生など、超短パルスレーザとしての応用がフェムト秒(fs)レベルの短いパルス幅を必要とするため、1OOfsのパルス幅の実現が長い間の目標であった。ここ数年の間、高出カフェムト秒ファイバレーザの精力的な研究開発が、学界と産業界の両方で行われた。200W の高い平均出力が多数のフェムト秒レーザで実現され報告されたが、超短パルスファイバレーザの分野では1OOfsパルス幅の実現が難しく、そこには技術上の障害があった。
今年1月、米国サンフランシスコで開催されたPhotonics West 2010において、米ポーラーオニキス社(PolarOnyx)は新しい高出カファイバレーザ技術を開発して、1OOfsのボトルネックを突破したと発表した。特許を取得したパルスとスペクトルの成形技術を使用して、高出カフェムト秒ファイバレーザのパルス幅を1OOfsに圧縮したのだ。この顕著な改善(200fsから1OOfsへ)によって、ファイバレーザの多彩な応用が開拓された。また、小型、メンテナンスフリー、高いコスト効果などファイバレーザのよく知られた特徴に加えて、1OOfsの帯域幅の特性も確保されたことで、固体レーザヘの置き換えが活発になると考えられる(表1) 。現在のフェムト秒ファイバレーザは大幅に改良され、産業/医療分野においてさまざまに応用できる技術へと成長している。
パルス幅の圧縮
フェムト秒ファイバレーザのパルス幅の低減は、分散、非線形性および利得狭窄の管理が挑戦課題になる。固体レーザに比べると、ファイバレーザは比較的長いファイバ長と利得媒質が原因で、非線形効果と利得狭窄効果が顕著に現われる。これらの効果はパルス形状とスペクトル帯域幅に影響を及ぽし、一般に、1Wで動作する場合のパルス幅の圧縮は200fsが限界になる。また、フェムト秒ファイバレーザに使用するファイバと回折格子圧縮器は商次分散(HOD) 不整合が起きるため、パルス幅の補償と圧縮はさらに難しくなる。
これらの問題を解決するために、米コーネル大学の研究者グループは、散逸ソリトンパルス成形と高平均パワーによるクラッド励起を利用した高出力モード同期ファイバレーザ発振器を研究した(1) 。この研究では、光学フィルタの帯域幅の適切な選択と偏光の調節により、安定したモード同期が実現された。このファイバレーザからは31nJのチャープパルスが70MHz の繰返し速度で発生し、その平均出力は2.2Wであった。レーザの外部でチャープを解消した後では、15nJのパルスエネルギー、80fsのパルス幅、200kWのピークパワーが得られた(図1) 。
この研究はパルス幅のボトルネックの解消を可能にするフェムト秒ファイバレーザの突破口になった。エネルギー伝搬とフィルタリング効果を適切に制御してHOD と利得狭窄が軽減された。しかし、このアプローチは動作が複雑であり、自由空間に配置する部品も必要になるため、実用的な製品を開発するには大幅な改善努力が必要であった。
マスタ発振器パワー増幅器(MOPA)の設計は、フェムト秒ファイバレーザへの信頼性のあるアプローチであることが証明され、このアプローチは米イムラアメリカ社(IMRA America) やポーラーオニキス社の現在の製品に採用されている。その一例として、ポーラーオニキス社はMOPA 方式の設計に基づいて、30~100MHz の繰返し速度、100fs のパルス幅、1W以上の圧縮出カパワーで動作するフェムト秒ファイバレーザを実現した(図2) 。このファイバレーザは、偏光、パルス、スペクトルの成形技術を使用し、ファイバレーザの発振器と増幅器を設計して、HOD、分散、非線形歪および利得狭窄の良好な平衡状態のもとでのパルスの発生と増幅を可能にしている(2) 。
重要なパルス成形技術の一つにはファイバの3 次分散(TOD)の操作がある。ファイバの分散は基本的に、材料分散と導波路分散の両方の制御が必要になる。1020~1090nm のスペクトル領域の材料分散は正の分散を示す。米コーニング社(Corning)のSMF-28ファイバなどの伝統的なファイバ設計を用いると、TODは必ず約0.3 ps/nm2-km の正の値になり、使用する回折格子圧縮器のTODとの整合が得られない。しかし、ファイバ導波路の構造を操作(陥没クラッドを用いる)すると、材料分散の改質をもたらす導波路分散の導入が可能になり、全体ファイバシステムのTODと分散スロープは、とくに回折格子圧縮器との整合を得ることができる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/06/201006-11f5.pdf