新世代レーザ兵器の誕生
半導体励起固体レーザは短距離防衛に一役買っており、半導体励起アルカリ蒸気レーザは上昇段階ミサイル防衛の候補にあがっている。
レーザ兵器の開発計画は以下に述べる三つの重要な実証により変化している。まず2009年の初め、米ノースロップグラマン社(Northrop Grumman)の半導体励起固体スラブレーザは100kW の出力を5分間にわたり連続的に放射した。次いで今年2月、米テキストロン・デイフェンス・システムズ社(Textron Defense Systems)が設計した半導体励起固体レーザは1OOkWを超える平均出力が得られた。さらに同月、航空機搭載メガワット(MW)級のエアボーンレーザ(ABL)は、仮想敵国からの脅威を代表する液体燃料スカッド(SCUD)ミサイルの長距離からの撃墜に成功した(図1)。
表面上は、これらの三つの実証は歓迎すべき良いニュースのように聞こえる。ABLは飛行中の外国製弾道ミサイルを破壊した最初のレーザとなり、ミサイル防衛の重要な日標が達成された。ノースロップグラマン社とテキストロン社の実証は、国防総省統合技術局の管理のもとで推進された統合高出力固体レーザ(JHPSSL)プロジェクトが成果を収め、固体レーザ兵器の開発目標が達成されていることを示している。
2011会計年度の予算ではABLを使用する酸素ヨウ素化学レーザ(COIL)技術の今後の開発はストップをかけられているが、新しいレーザ技術を開発し、B747に搭載されたレーザを実験台にして、高エネルギーレーザの効果を研究する予算は含まれている。この予算には、対照的に電気的にパワーを注入する1OOkW級レーザの戦場での実用可能性をロケット、大砲、臼砲および小船舶に対して検証する実地試験の費用が含まれている。
ミサイル防衛の諸問題
ABLはカーター政権の時代に開始された一連のミサイル防衛レーザプロジェクトから得られた最新の成果になる。米国防総省の防衛高等研究計画局(DARPA)が推進してきた宇宙レーザトライアド(Space Laser Triad)プロジェクトには、アルファ(Alpha)と命名された5MWのフッ化水素(HF)化学レーザを地上に配置し、レーザビームが周回する戦闘配置を形成して、ソ連の核攻撃を阻止する可能性を立証する計画が含まれていた。ロナルド・レーガン大統領の戦略防衛イニシアチブでは、この計画を拡張して、ポップアップ方式の爆弾誘導X 線レーザを含めた多層構造の防衛体制とその代替案が提案された。アルファレーザは1991年にMW級の出力に到達したが、冷戦終結と、レーザ技術と宇宙技術に関する数々の難しい問題が原因で、この計両は変更された。
ABL計画は1993年に誕生したが、それは対応の容易なミサイル脅威、つまり北朝鮮のような「ならずもの国家」による少数のミサイル攻撃に対する防衛が日的であった。この計画はミサイル発射が想定される場所に近づいて飛行する航空機の内部にMWレーザを配置して、攻撃の容易な発射段階のミサイルを破壊する。このレーザの開発では、1.3μm COILレーザを使用すると、ビーム伝搬にともなう問題の解決が可能になり、HF/DF 化学レーザの場合に比べると、レーザビームの方向制御光学系の小型化が容易になると考えられている。
国防総省は1996 年に、ABLを構築するための11億ドルの契約を米ボーイング社と締結し、2000年代の初めにおけるレーザ命中試験の開始を設定した。ブッシュ政権は多層ミサイル防衛システムの発射段階ミサイルヘの対策としてABL を設計したが(図2)、計画されたミサイル撃勝の成功は予定に比べて何年も遅れ、予算は計画を数十億ドルも超過した。
昨春、米国防長官のロバート・ゲーツ氏(Robert Gates)は完成試験に入る前のABL機への予算の執行を停止した。彼は議会において、計画されたレーザの命中距離は85マイル(約135km)しかなく、発射段階のミサイル防衛に必要になると考えられる200kmに比べると非常に短い距離だと証言している。今年2月に発表された次年度の予算案はABL 計画を変更し、ABLを空中と地上におけるレーザ効果の研究用の実験台として位置づけている。新しい「指向性エネルギー研究」予算案では、9500万ドルを新方式のレーザの開発とABLで分割することになっているが、米ミサイル防衛局(MDA)の報道官は予算がどのように分割されるかは把握していないと語っている。
MDAは2月の試験におけるレーザ距離を公表しなかったが、試験は標的に十分接近した距離から開始して、次第に距離を広げて、標的への命中が難しくなるように計画されていた。最初の成功は2月3日の探測ロケットの撃隊であった。ABLは2月11日にスカッドミサイルを撃墜したが、このときは発射の数秒後に標的の固定追尾が始まり、大気ゆらぎが測定され、その補正がCOILの点火前に行われ、発射の2分以内にミサイル構造の破壊に成功した。ABLは1時間以内に、次に発射された固体ロケットの追尾を再開し、点火が反復できることを実証した。2番目のミサイルは破壊できなかったが、Aviation Week 誌によると、失敗の原囚は「ビームのミスアラインメント」にあるという(1)。MDAは今夏の追試を計画しているが、そこではシステム応答を評価するための対抗手段と複数ミサイルによる実験が行われる。まだ公の場で取組まれていない重要な間題には、最高速度で飛行するミサイルに対するレーザとその光学系の対応能力の評価が含まれる。
半導体励起アルカリレーザ
MDAの2011会計年度の予算案は、半導体励起アルカリレーザをミサイル防衛用の主要な候補にしている。半導体励起アルカリレーザは、気相の熱管理が固相よりも容易になる、非常に高い光—光変換効率が期待できる、励起用の近赤外励起半導体レーザとの整合性が良い、単位体積当たりの出力が非常に高い、特殊化学燃料ではなく電力により動作するなどの利点が大きな魅力となっている。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/06/201006-6pf.pdf